11/29 答え
「かずみのことはもう、危険だから専門のひとに任せたの。それといっしょに、あんたの姉さんのこともね」
叔母はそう言った。
なんでもあの夜、我が家を訪ねてきたあの白い人影は「専門のひと」だったらしい。「色々あって月夜にしか出歩けないし、受け答えに難はあるけど仕事はできる」のだそうだ。
「だったら先に言っておいてよ。急に来られて幽霊かと思った」
そう文句を言うと、
「不意打ちじゃなきゃだめよ。奈々子が素直に首をくれるわけがないでしょ」と呆れたように返された。その通りだと思った。
「姉さんはどこに埋めたの?」
「あんたの知らないところ」
叔母はそっけなく答えた。
体は三日ほどで普段通り動かせるようになった。節々は痛むが、ともかく後遺症が残るような怪我をしなくてよかったと思った。
一週間ほど経ってから家に戻ると、内装業者がめちゃくちゃになった書斎から壊れたものを運び出しているところだった。脚が折れた椅子や、割れたガラスなどがトラックに積まれていく。なんだかわたしの家ではないような騒がしさだ、などと考えながら中に入った。
ゴミを出し、片付けが終わった書斎はやけに広く見えた。サイドデスクとか椅子とか置物とか、細々としたものでもあれこれなくなれば寂しいものだ。飾り棚は無事だけれど、姉がいたところにはもうクッションしかない。
書斎の窓から外を眺めた。冷たい風が頬に心地よかった。
姉はわたしがいない間に埋められてしまった。彼女が危険なものだというなら、それがよかったのかもしれない。でも、胸の底には重く、もやもやとしたものが残る。
飾り棚の中で眠る姉の顔を思い出した。わたしに向ける笑顔を、「なぁ子ちゃん」と呼びかける声を思い出した。
わたしは姉にさよならも言えなかった。
これが別れだと思って抱きしめることもしなかった。
それでいいのだろうか。
わたしはこれからどうするべきなのだろう。
答えは簡単には出ない。
家の前の長い坂を、誰かがこちらに歩いてくる。
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