風と共に生きる

雨宮大智

第1章 想いのカタチ

1-1 僕、与津良一について

 願いをかけた時、それが現実化したらどうなるかを、君は本当に考えているだろうか。一時の感情や欲望に流されて、不用意な想いを発してはいないだろうか。君は、「本当にそれが欲しい」のか。君は「本当にそのことが起こって欲しい」のか。曖昧な気持ちや軽い考えから、それを望んではいないだろうか。



 僕の名は「与津良一よづりょういち」。大学四年生で、昨日ようやく二つ目の内定通知をもらった。一つ目の内定は、アパレルメーカーの営業の仕事だった。地元の優良企業で、美名で通る一流の会社だ。大学の教育学部に在籍する僕は、主に教員免許の取得が目的の友達のなかで、学生活動を送った。


 時は、二つ目の内定通知をもらった、地元の大型書店での試験の時にさかのぼる。


**************************


 九月の空はどこまでも高く、澄んでいた。僕は八月に内定をもらったアパレルメーカーの他に、大型書店の試験を受けようとしていた。


「オレ、昨日、四つ目の内定をもらったよ。与津はいくつ内定をもらったの?」


 そう聞いてきたのは、大学の同級生である「三田精一郎みたせいいちろう」君だった。


「まだ一つだよ。内定は数多くもらっても、余り意味ないでしょ。就職できる会社は、結局一つしか無いんだから」

 僕はそう言い返したが、本音を言うともう少し内定が欲しかった。見栄ではないと、自分に言って聞かせたのだが、やはりひとつだけというのは、少し悔しかった。


「それはそうだけどねぇ」

「結局、三田君は何がしたいの?」


 僕は、ついそう言い、しまったと思った。三田君は出来るタイプの秀才なのだが、目標がはっきりせず目的を絞り込まないところがあり、エネルギーを分散させてしまうのだ。


「公認会計士がいいか、自衛官がいいか、それとも市役所勤めの公務員がいいか、今迷っているんだ。どの内定を現実化させるか、一緒に考えてくれないか」

「自分の道だろ」と僕。

「一人ではどうしようもないから、相談しているんだよ。日商簿記2級の資格を活かすか、小さい時から剣道で鍛えてきた体力と知力を活かすか、それとも本来の性格である、生真面目な特質を活かすか、本当に迷っているんだ。どう思う?」

 僕は少し耳を傾けようと思った。


「そうだな。普通は性格だろう」

「そうか」

「だとすると、市役所勤めの公務員が良いんじゃないか。それも内定をもらったの?」

「一次試験の筆記テストに合格したところなんだ。次に面接試験があるんだよ」

「山河市役所?」

「そうなんだ」


それから三田君は、本当は就職を早く決めてしまって、遊びたいのだと告白した。


「誰でも、そうだろうな」

「そうだね」

「あーあ、僕も早く内定が欲しいよ。それと、彼女が欲しいな」


 僕は思わず、そう洩らしてしまった。


 それが、あんなにも早く現実化するとは、夢にも思わなかったのだ。その時には。

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