風と共に生きる
雨宮大智
第1章 想いのカタチ
1-1 僕、与津良一について
願いをかけた時、それが現実化したらどうなるかを、君は本当に考えているだろうか。一時の感情や欲望に流されて、不用意な想いを発してはいないだろうか。君は、「本当にそれが欲しい」のか。君は「本当にそのことが起こって欲しい」のか。曖昧な気持ちや軽い考えから、それを望んではいないだろうか。
僕の名は「
時は、二つ目の内定通知をもらった、地元の大型書店での試験の時に
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九月の空はどこまでも高く、澄んでいた。僕は八月に内定をもらったアパレルメーカーの他に、大型書店の試験を受けようとしていた。
「オレ、昨日、四つ目の内定をもらったよ。与津はいくつ内定をもらったの?」
そう聞いてきたのは、大学の同級生である「
「まだ一つだよ。内定は数多くもらっても、余り意味ないでしょ。就職できる会社は、結局一つしか無いんだから」
僕はそう言い返したが、本音を言うともう少し内定が欲しかった。見栄ではないと、自分に言って聞かせたのだが、やはりひとつだけというのは、少し悔しかった。
「それはそうだけどねぇ」
「結局、三田君は何がしたいの?」
僕は、ついそう言い、しまったと思った。三田君は出来るタイプの秀才なのだが、目標がはっきりせず目的を絞り込まないところがあり、エネルギーを分散させてしまうのだ。
「公認会計士がいいか、自衛官がいいか、それとも市役所勤めの公務員がいいか、今迷っているんだ。どの内定を現実化させるか、一緒に考えてくれないか」
「自分の道だろ」と僕。
「一人ではどうしようもないから、相談しているんだよ。日商簿記2級の資格を活かすか、小さい時から剣道で鍛えてきた体力と知力を活かすか、それとも本来の性格である、生真面目な特質を活かすか、本当に迷っているんだ。どう思う?」
僕は少し耳を傾けようと思った。
「そうだな。普通は性格だろう」
「そうか」
「だとすると、市役所勤めの公務員が良いんじゃないか。それも内定をもらったの?」
「一次試験の筆記テストに合格したところなんだ。次に面接試験があるんだよ」
「山河市役所?」
「そうなんだ」
それから三田君は、本当は就職を早く決めてしまって、遊びたいのだと告白した。
「誰でも、そうだろうな」
「そうだね」
「あーあ、僕も早く内定が欲しいよ。それと、彼女が欲しいな」
僕は思わず、そう洩らしてしまった。
それが、あんなにも早く現実化するとは、夢にも思わなかったのだ。その時には。
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