第4章 幸福主義についての考察

4-1 ある新刊本

 僕が「松山書店」に就職してから、一ヶ月余りが経とうとしていた。五月の連休の混雑を過ぎ、ようやく日常の生活が生まれはじめた。朝七時に起き、午前九時半に出社する生活は規則正しく、心や体は健やかだった。

 日々の仕事にもようやく慣れはじめ、新しい生活スタイルが、日常になっていこうとしていた。


「あれ? 何だこの本?」


 それは、僕が新刊の単行本を並べていた時のことだった。

「雨音多一著、『幸福主義について』か」

 僕はその本を手に取った。

「お昼休みに、買って読もうか」

 僕は独り頷き、新刊本のコーナーを後にした。


      ***


 お昼休みに本を買った僕は、事務室兼休憩室で、本を開いた。思想書と実用書の中間のような造りをした本だった。


「……現在の日本では、POD=オンデマンド出版が隆盛している。PODは、プリント・オンデマンドの略で、アマゾンや楽天ブックスなどで扱っている。一冊から本を造ることが可能で、在庫リスクを抱えることなく、出版活動を行うことができる」


 ⎯⎯ 今は、こんなサービスがあるんだ。


 僕は嬉しくなって、その箇所にふせん紙を貼った。ふせん紙は良い方で、ペンで書き込む時や線を引く時もある。

 僕は、その本を読みながら、事務室でお昼休みを過ごした。

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