3-6 書き始めた物語
僕は電話を切ると、時計を見た。三時三十分を、時計の針は指していた。
⎯⎯ 何を書こうか?
僕はルーズリーフに、思いつくままにキーワードを並べようと思った。
「本。物語。冒険。少年から青年へ……」
⎯⎯ 中学生の男の子が読んでくれる冒険物語が良いな。
「タイトルは『戦士ドラガルの旅』にしてみよう」
僕はそれから、一時間ほどかけて、プロットを考えた。血湧き肉躍る冒険物語を、僕は書きたかったのだ。
⎯⎯ あれ、僕は何を書いているのだろう。
僕は我に返った。
僕はまた明日から、本屋で本や雑誌を並べるんだ。こんなことに時間を割くんじゃなくって、体を休めた方が良かったのかな?
もう一度、書いた物を見返してみる。
ドラガルという戦士が、心の奥底のダンジョンに潜る、という話。ダンジョンは、山や洞窟ではなくて、自分自身の心の中にある。ドラガルは、異世界へと旅立つのだ。自分の心の奥底のダンジョンへと……。
僕は、自分で書いた物を読み返して、考えた。
「これを子どもたちは、楽しんでくれるかな」
僕の心の中に、読み手のイメージがあった。それは、中学生位の男の子だった。その年代、僕は夢中になって文庫本を読んでいた。いわゆるファンタジーの戦記物だった。某書店から出ている、ファンタジーのシリーズをほとんど全て読破していた。あの頃の僕に向けて、書いてみたかったのだ。
僕はトイレに立った。小用を済ませ、手洗い場の鏡を見た。
⎯⎯ 僕は、本当にこの道で食べて行けるのだろうか。
不安だらけだった。
しかし、かすかな希望を感じていた。「心が動く」ことを始めたのは、久しぶりだった。本当に自分がしたいことを、僕はしているのだ。
僕は手を洗うと、水場を後にした。
⎯⎯ 僕は生きているのだ。今を生きているのだ。
「第三章 異界についての考察」(結)
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