1-4 三つ目の願いごと
翌週の金曜日に松山書店の一次試験の合格通知が届いた。九月も終わりに近付いた日のことだった。
その日に、夢を見たのだ。あの試験の日に見た夢の続きを。
ぼくは、あの白い世界の中で肘掛け椅子に座る老人の前にいた。
「どうだ。君の願いは叶ったかね?」
老人の言葉に僕は頷いた。
「本当にありがとうございます。一次の筆記試験に合格することが出来ました。それから素敵な女性にも出会うことが叶いました」
老人はにこやかに頷いた。
「まだ途中だが、その二つの願いは叶うだろう。最後の一つの願いは、考えついたかい?」
僕はゆっくりと考えを巡らした。
「最後の願いは……、『幾つでも願いを叶えてもらう』ことです」
僕がそう言うと、老人は頷いた。
「いいだろう。その願いも叶えよう」
僕は次の瞬間に目が覚めた。
喉が渇いていた。
キッチンから水を汲んでこようと、ローテーブルの上のマグカップを手に取った。
−− そこには、既に水がなみなみと入っていた。
僕は、ビクリとした。
額に汗が浮かんだ。
−− 暑い。
次の瞬間、開け放した窓から、冷風が入り込んんできた。風が汗にあたってひんやりとした。
−− 冷たいものを食べてリフレッシュしようか。
階下から母の声がした。
「良一、アイス買って来たから、キッチンへ取りにおいで」
−− 一体、どうなっているんだ?
僕の「幾つでも願いが叶う」という願いが実現し続けているのだろうか。僕は慌てた。
「神さま、ごめんなさい。『幾つでも願いが叶う』という願いを取り下げます」
−− いいだろう。
どこからか、声が聞こえた気がした。
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それから僕は、松山書店の二次試験に、無事合格した。内定通知をもらったのである。
「……じゃあ、今度、一緒に映画を観に行こうよ。分かった。じゃあ、もう遅いから切るね」
そして僕は、同じく二次試験に合格した黒崎さんと電話番号を交換した。毎日のように電話で話した。
僕は、想いが叶ったのだ。
心の底からの願いが叶ったのだ。
その後、僕はよく考えるようになった。いつも、どんな自分になるかを考えるようになった。本当に何が必要で、その為にお金を幾ら使うを考えるようになったのだ。
僕はある本の一節をよく思い出す。流れ星を見た弟が「願い事を三回も言うだなんて出来ないよ」と、兄に嘆くのだ。兄はこう
それから僕はよく考えるようになった。哲学書を読むのではなく、自分の言葉で考えを表現するのだ。
それが僕の、三つ目の本当の願いごとだった。
第1章「想いのカタチ」 (結)
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