第5章 本の出版について

5-1 本造り

 僕は、水曜日の夕方、自室でパソコンを立ち上げた。年末年始の慌ただしい時期を経て、一月中旬の休日の午前中を、僕はのんびりと過ごした。午後から黒崎さんと少し電話で話し、それからようやく僕の本造りが始まったのだった。

 本文は「ミッション」のサイトから、書き出した。節ごとに分割したファイルが三十三個、データとして現れた。一つ一つがファイルになっており、ウィンドウズのワードのアイコンが表示されていた。


「本文は、こうなっているのか……」

 僕は、ファイルを一つのドキュメントにまとめるべく、新規ドキュメントを作成した。およそ一時間をかけて、僕は本文の流し込みを終えた。


「表紙はどうしようか……」

 僕はフォトショップというアプリケーション・ソフトを立ち上げた。勤務先の松山書店で、店内広告のPOPを作る時に、操作を教えてもらったので、少し使うことが出来たのだ。イラストを素材集のHPからダウンロード購入する。二千円位で、割と質の良いイラストを購入できた。本当のところはオリジナルのイラストを発注したいのだが、予算の都合で今回は素材集のイラストにしたのだった。


「タイトルを作って、と……」

 僕は、久しぶりの操作に多少戸惑いつつも表紙をつくり、タイトルを作成した。ここまでおよそ四時間もの時が過ぎていた。最後にもう一度、入稿の諸注意を見直した。僕は疲れ切っていたのだが、最後の工程である「データ送信」を行い、ようやく息をついた。


⎯⎯ これで本当に本ができるのか。


 僕は、このPODのシステムが本当に本を造るものであることが、未だに信じられなかった。とりあえず、「テスト版」という、校正サービスに申し込んだ。一週間位で、見本の冊子が届くのだという。


「そういえば、夕飯まだだった」

 僕は急に空腹を自覚し、一階のキッチンへと向かうことにした。パソコンを立ち下げて部屋の灯りを消した。もう夜の七時半を過ぎていて、家の者はみな、食事をとりえ終えているだろうと思われた。


「これが作家への、第一歩か……」

 灯りを消すと、部屋が闇に沈んだ。

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