1-2 不思議な夢
九月の中旬、僕は松山書店の就職試験の会場に来ていた。松山書店は、県内に七つの店舗を構える大型書店だった。売り場面積も広く、専門書なども多数取り扱っていた。
「あの、松山書店の試験を受ける方ですか?」
聞き慣れない若い女性の声に、僕は振り返った。
見れば、髪を一本に束ね、濃紺のスーツを着た女性が、すぐ後ろに立っていた。
「そうですが……」
僕は少し緊張しながら、答えを返した。
「私も、入社試験を受けるんです。リクルート・スーツだったから、もしかして、と思って……」
女性はそう言ってはにかんだ。
「そうなんだ。入社試験は、やっぱり緊張するね」
女性は頷いた。僕はその瞬間、夕べの夢を思い返していた。
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それは真っ白な世界でのことだった。
あてなく歩いていると、大きな肘掛け椅子に座っている老人を見つけた。
「君は明日、試験を受けるそうだね」
老人は、ゆっくりとそう聞いた。
「はい。松山書店の試験を受けるんです」
僕は正直にそう話した。
「難しい試験かもしれません。二次面接もあるので……」
老人は僕を見つめた。
「君に、三つだけ願いを叶えてあげるとしたら、何がいい?」
僕は驚きを禁じ得ずに聞き直していた。
「本当にありがとうございます。願いを三つですか」
「そうだ。よく考えるといい」
「ええと……」
僕は胸が高鳴るのを感じながら、必死に考えた。
「……まず一つ目は、素敵な彼女とお付き合いできること。二つ目は、試験に合格して無事就職できること。三つ目は……」
僕はあと一つの願いが思いつかなかった。
「三つ目は、考えさせてください」
「良いだろう。君はこれまで大変勉強を頑張ってきたから、そのご褒美にその二つの願いを叶えてあげよう。明日の試験の時に全て叶うだろう。喜びたまえ」
夢はそこで終わった。
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