1-2 不思議な夢

 九月の中旬、僕は松山書店の就職試験の会場に来ていた。松山書店は、県内に七つの店舗を構える大型書店だった。売り場面積も広く、専門書なども多数取り扱っていた。


「あの、松山書店の試験を受ける方ですか?」

 聞き慣れない若い女性の声に、僕は振り返った。


 見れば、髪を一本に束ね、濃紺のスーツを着た女性が、すぐ後ろに立っていた。


「そうですが……」

 僕は少し緊張しながら、答えを返した。

「私も、入社試験を受けるんです。リクルート・スーツだったから、もしかして、と思って……」

 女性はそう言ってはにかんだ。

「そうなんだ。入社試験は、やっぱり緊張するね」

 女性は頷いた。僕はその瞬間、夕べの夢を思い返していた。



************************************



 それは真っ白な世界でのことだった。

 あてなく歩いていると、大きな肘掛け椅子に座っている老人を見つけた。


「君は明日、試験を受けるそうだね」

 老人は、ゆっくりとそう聞いた。

「はい。松山書店の試験を受けるんです」

 僕は正直にそう話した。

「難しい試験かもしれません。二次面接もあるので……」


 老人は僕を見つめた。

「君に、三つだけ願いを叶えてあげるとしたら、何がいい?」

 僕は驚きを禁じ得ずに聞き直していた。


「本当にありがとうございます。願いを三つですか」

「そうだ。よく考えるといい」

「ええと……」

 僕は胸が高鳴るのを感じながら、必死に考えた。


「……まず一つ目は、素敵な彼女とお付き合いできること。二つ目は、試験に合格して無事就職できること。三つ目は……」


 僕はあと一つの願いが思いつかなかった。

「三つ目は、考えさせてください」


「良いだろう。君はこれまで大変勉強を頑張ってきたから、そのご褒美にその二つの願いを叶えてあげよう。明日の試験の時に全て叶うだろう。喜びたまえ」


 夢はそこで終わった。

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