4-5 WEB小説のアカウント

 僕はデートを終え、自宅へと戻った。時刻は午後三時。街の中心部はそれなりに賑わっていたのだが、平日のためか、自転車での帰路では交通量が余り多くなかった。

 僕は、自宅へ着くとすぐ、二階の自室へと向かった。そして、雨音多一氏の本を広げる。


「地球と地球国家は進化をしている。1603年の江戸幕府の成立。1900年の近代国家の隆盛を経て、国家は新しい段階へ入ろうとしている。現代日本でも、新しいタイプの国家が生まれつつあるのではないだろうか。それを推進するのが、インターネットである。田舎への移住や自然観の刷新。地方と都市の優劣の逆転。インターネットは新しい価値を、田舎暮らしに与えた。田舎への移住は、中央集権の近代国家からの離脱であるといえよう」


 僕は、国家の形式に余り詳しくないのだが、インターネットが世界を変えていることは実感していた。


⎯⎯ 新しい時代、か。

 僕は再び本をめくった。


「私は、この新しいインターネット中心の社会を『幸福主義社会』と名付けた。個々人の幸福が、世界を創ってゆく社会である。インターネットによる注文が、それまでの経済体制を打開した。

 幸福主義の時代は、新しい自然観を創出した。第一次産業、すなわち農林水産業の再評価が起こったのである。また、キャンプやウィンター・スポーツなども、自然の再評価によって盛んになってきている。

 地球環境問題も、大勢の人々が共に考え、持続可能な社会の構築を志すようになった。法律の整備が進み、廃棄物やリサイクルへの関心も高い。これらは全て、幸福主義社会の一側面である。

 現代は、インターネットによって、各々の独自の考えを発信することが容易になった。ひと昔前までは、自費出版で数百万円かかったものが、誰しも無料で小説などを公開できる。またPOD形式の出版をすれば、極めて安価で紙の本を造ることもできる」


 僕はPOD出版によって、本をリリースしようかと考えた。今書いている、剣と魔法の冒険物語を、本にして出版したい。そんな考えが浮かんだ。


 僕はノートパソコンを立ち上げ、今まで書いた物を目読し始めた。そして、ブラウザを立ち上げて、WEB小説サイト「ミッション」のHPを開いた。


 ⎯⎯ はじめての方、はここか。

 僕は「ミッション」のアカウントを作った。


「ここに入力すれば良いのかな」

 僕は最初の設定を済ませると、小説の詳細についての項目へと進んだ。順調に設定していく。


「あとは、文章の打ち込みか……」


 小説は、半分くらい書き進めていた。全部で四百字詰め原稿用紙二百枚になる予定である。今現在は、半分の百枚程度を書き上げていた。


 「タイトルは、どうしようか……」

 僕は最後の最後に、難題にぶつかった。


「『戦士ドラガルの冒険』……、ちょっと古いか。『戦士ドラガルの旅路』。こっちが良いか」


 僕は最後にタイトルを入力して、WEB小説のアカウント作成を終えたのだった。

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