5-4 販売スタート

「良一、届け物よ」

「ありがと」


 それは月曜日の夕方のことだった。僕は、勤め先である松山書店から自宅へと帰り着き、キッチンで母から荷物を受け取った。

 一日の疲れが一気に吹き飛び、僕は急いで二階の部屋へと戻った。薄く硬い梱包を解くと、僕の本が姿を現わした。僕は胸の高鳴りが止まらなかった。


 ゆっくりと中の薄い紙を外す。黄緑色の表紙が現われた。

「意外に綺麗な印刷だな」

 僕は思わず、そう口に出してしまった。表紙は四ツ葉のクローバーの画像だった。それにタイトルをフォトショップで加えた。判はA5。タイトルは『戦士ドラガルの旅路』」

 急いで中面を開く。


「ああ、行間空き過ぎだな、これは」

 プリントアウトして見たものとは、印象がかなり違っていた。


「字も大きいかな」

 10.5ポイントでは、大きすぎる感じがする。僕はそれから、本文を読み始めた。

結局、修正箇所が二十点ほどあった。最初の感動が、安堵に変わる。

「これを直して、すぐにデータを送ろう」


 そして、その十日後。アマゾンのHPに自分の本が載り、予約販売が開始された。


「これで僕も、小説家の最初の門をくぐったのかな」

 あまりに拍子抜けするような、作家デビューだった。本当に凄い世の中になったものだと、ひとり得心する。

 だがしかし。というよりも当然のことなのか、本は全く売れなかった。予約注文も一冊も売れないのだ。どうしたら良いのだろうか?



 僕はもう一度、雨音多一氏の本を読み返していた。

「ほとんどの場合、本は売れないと思います。それをどう売っていくのが、POD作家に課せられた仕事なのです」


「Xにポストしてみるか。それともブログが良いかな……」

 X、旧twitterはアカウントを作ったものの、規模を縮小してしまい、あまり投稿していなかった。フォロワー数は150名位だ。


「とりあえず、ポストしよう。『本を出版しました。戦士ドラガルの旅路。定価1650円。ぜひ、チェックして見てください』」

 そんな感じで投稿してみた。あまり反応が良くない。作家のアカウントじゃないから、当然となのだが……。


 雨音多一氏の本をまた開く。

「SNSでプロモーションをかけることも、POD出版には欠かせないことですが、フォロワー数が少ない場合には、相当大変でしょう。SNSで効果が出るには、最低でも一カ年以上かかると思われます」


 さて、どうしたものか……。

 ⎯⎯ そうだ。フェイスブック広告はどうだろうか?


 僕はフェイスブックのHPを開いた。「友達」が百名ほどいた。ファンページを作ってみたら、どうだろうか。

 僕はいろいろと調べながら、ファンページを作った。そこには友達を招待する。結局二十名位が登録してくれた。有難い世の中になったものである。早速、フェイスブック広告を試してみる。


「結構、細かな設定でPRできるんだな」

 性別・年齢・趣味・居住地など、リーチする対象をかなり絞り込めるのだ。


「とりあえず、三千円位で広告を打ってみようか……」

 僕は悪戦苦闘しながら、フェイスブック広告を打った。

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