5-5 作家への道
そうしているうちに三日が過ぎた。
僕は勤務先の松山書店の休憩室で昼食を摂っていた。店長の川村さんが、遅れて入ってきた。
「お疲れ様です」
「ああ、ご苦労さま」
僕たちは、世間話をしながら昼休みを過ごした。
「今、インターネットで自分の本を売っているですけど、なかなか売れなくて……」
「じゃあ、このお店にも置いてみれば?」
「えっ、いいんですか」
僕は驚きのあまり、言葉を失った。
「委託販売で、二割をお店が貰えばいいんだよ。郷土作家のコーナーに置けばいいよ」
「川村店長、本当に有難うございます。すぐに何冊か取り寄せますね」
僕は帰り道を、うきうきと自転車で走った。夕暮れ時の風が冷たかった。道路の路肩に少し雪があり、さらに辺りを冷やすようだった。
「僕の本を、書店に置いてもらえるんだ。自分の手で、読み手に届けるんだ」
それは、すごく幸せなことだと思われた。
⎯⎯ 楽しんで造るのがイチバンね。
黒崎さんの言葉が甦った。
本をつくる歓び。文を重ねる愉しみは、何物にも変えがたい。そして、それを自分の手で売る悦び。すべてが一つになった。
僕は人生を何度もやり直したいと思った。自分の進路を幾度も変えた。それで良かったのだ。
今、僕は「作家」のスタート地点にいた。
「風と共に生きる 最終章 本の出版について」(結)
風と共に生きる 雨宮大智 @a_taichi
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