2-3 卒論の決心

「……今日調べたのは、そんな事柄だったんだよ」


 僕は夕食の席で、父と母にそう話した。今日、弟の裕二はアルバイトで夕食の席にいなかった。夕食のテーブルには、カレーと福神漬とらっきょうが並び、かぐわしい香りが空腹を刺激した。

「お待たせ。最後の品は、冷たいコーンクリームよ」

 父が母からスープを受け取った。


「ありがとう。……食の安全の背景には、化学物質などが原因よるアレルギーがあったのか。よく調べたね」

 父が優しく言葉をかけてくれた。


 父の与津定雄は四十七才。今年年男の卯年生まれだった。

「さめないうちに、どうぞ」

「いただきます」


 僕は、カレーライスを口に運んだ。


「そういえば、お父さんの勤める山河市役所にも、移住者がいたなぁ」

「えっ、ホント?」僕は食べる手を止めた。

「どういう人なの?」


「Iターンで、東京の大学から山河市へ移住したんだよ。今、観光課でドローンの空撮やインスタグラムなんかをしているんだよ」

「そうなんだ」僕は相槌を打った。


「東京から、旅行で山河市を訪れて、そのまま居着いたんだよ。良一の少し年上で、二十七才位かな」

「そんな人も、割と近くにいるのねぇ」

 母がひとこと、そう洩らした。

「大学を出て、すぐにこの山河市へと移ったんだね。やっぱり、インスタとか上手だろうなぁ」

 僕は独り頷いていた。


「お父さんたちは、『発信者』って呼んでいるんだ。インスタとかフェイスブックとかに投稿するからね」

「『若い発信者』ね」

 母さんが、愉快そうにほほえんだ。


「そうなんだ。そしてその情報を得て、コロナ禍を避けるために、多くの人が問い合わせをしてきたんだよ」


 父の言葉が、重く響いた。

 僕は、時代の新しい流れを感じた。


 −−これを卒業論文にしてみよう。

 僕はそう決心して、その日を終えた。

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