視察
リッツ侯爵との会談を終えたアルスは、アルスラーン学院に戻り、農業専攻の様子を見に来た。彼は学院内の主要な教授陣を集め、農業に関するカリキュラムの確認や、更なる講師の招聘について議論を重ねた。農業都市カマでの経験を基に、アルスは公国全体にとって有益な教育を提供することを目指していた。例えば農業都市カマへの研修・実習を取り入れることも考えていた。
数週間が経過し、アルスラーン学院内には農業専攻は更に高度な教育を行えるようになっていた。地域の農業指導者や技術者たちも協力し、新しい農業技術や環境に配慮した方法を取り入れた実践的な教育プログラムが提案され、特に、灌漑技術の導入や作物の耐久性向上に関する研究が大きなテーマとなっていた。
そんな中、アルスの婚約者であるリエラが彼のもとを訪ねてきた。彼女は既にアルスラーン公国に戻っており、アルスの多忙な日々を静かに見守っていた。
「アルス、農業専攻は順調に進んでいるようね」とリエラが微笑んで声をかけた。
アルスは彼女の存在に気づき、少し疲れた表情を和らげながら微笑み返した。「リエラ、君が来てくれて嬉しいよ。今、学院内での構想がようやく形になってきたところだ。君のブランドも忙しいだろうに、時間を取ってくれてありがとう。」
「もちろんよ。私たちの未来に関わることだもの。それに、君がどれだけ公国のために頑張っているか、見ていたいから」とリエラは真剣な眼差しをアルスに向けた。
アルスはその言葉に力を得たように、リエラに感謝を伝えた。「僕たちが築こうとしているものは、公国の未来だけじゃなく、僕たち自身の未来でもある。君と共に歩んでいくことが、僕にとって何よりの励みだよ。」
二人はしばらくの間、学院の庭を歩きながら話を続けた。リエラは自分のブランドの話も交えつつ、アルスの計画に耳を傾け、時折自分なりの意見を伝えていた。彼女の知識とセンスは、ファッションだけでなく、ビジネス全般にも優れており、その視点はアルスにとって貴重なアドバイスとなっていた。
「そういえば、父とイーナの父も、結婚のことをまた急かしていたわね」とリエラが軽く笑いながら言った。
「そうだったな。彼らが僕に早く結婚しろと言ったあの時は、さすがに驚いたよ。でも、僕も決めたんだ。君、イーナ、そしてハルナと共に、公国を守り、未来を築いていくって」とアルスは真剣な表情で答えた。
「その決断、私は嬉しいわ。これから大変なこともたくさんあるだろうけれど、私たちならきっと乗り越えられるわ」とリエラは自信に満ちた表情で言った。
二人はその後もゆっくりと話しながら、アルスの将来の計画や、結婚後の公国の運営について意見を交わした。そして、二人の結束はさらに強固なものとなり、公国を共に導いていく未来に向けて歩みを進めることを確認し合った。
その後、アルスはリエラを見送り、農業専攻の視察に再び戻った。農業専攻は、アルスにとって最初のステップに過ぎなかった。公国の食糧問題を解決し、未来を築くためには、さらに多くの課題に取り組んでいかなければならなかったが、彼はその全てを仲間たちと共に乗り越える覚悟でいた。
そして、結婚の日は少しずつ近づいていた。
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