新たなステップ

展示会の成功から数日が経過し、アルスは次のステップに向けた計画を練っていた。リエラやイーナ、ナットとの協力を通じて、アルスラーン公国は着実に発展を遂げつつある。しかし、彼の心にはまだ懸念が残っていた。リース帝国の貴族たちとの関係が一時的に改善したとはいえ、国際情勢は流動的であり、次に何が起こるか予測できない。


「外見的な成功だけでは、まだ安心できないな…」アルスは窓の外を見ながら呟いた。


その時、彼の執務室にイーナが静かに入ってきた。「アルス、次の会談の日程が決まりました。リース帝国の代表が来週、こちらに訪問することになります。」


「ありがとう、イーナ。それまでにもう少し時間があるな。準備を怠らないようにしよう。」アルスは立ち上がり、机の上に広げられた資料に再び目を落とした。


「それから、もう一つ。ナットさんが新しい連絡用の魔道具を完成させたと報告がありました。すぐにでも試してみたいと。」イーナは、報告書を差し出しながら言った。


「そうか。ナットさんには今回もお世話になったな。彼の魔道具は、公国全体の防衛や連絡体制を大きく強化してくれるだろう。すぐに彼と会って、詳細を確認しよう。」


数時間後、アルスはナットの工房を訪れ、新しい魔道具を目の当たりにした。それは、手のひらに収まるほどの小さな水晶の球体であり、通信を行うために設計されていた。


「ナットさん、これが新しい魔道具?」アルスは球体を手に取り、光を透かして見た。


ナットは誇らしげに頷いた。「そうです。これは特殊な魔力を使って遠隔地と連絡が取れるようにした魔道具です。距離に関係なく、即座に音声でのやり取りが可能になります。しかも、暗号化された通信を行うので、他国のスパイに情報を盗まれる心配はありません。」


「素晴らしい技術だ。これなら、リース帝国や他国との緊急連絡も迅速に行えるな。」アルスは感心しながら、魔道具を慎重に操作した。


「試してみてください。実際に通信を行うのは簡単です。この魔道具に触れ、相手の名前を呼ぶだけで、通信が開始されます。」ナットは説明しながら、自信に満ちた表情を見せた。


アルスは半信半疑で魔道具に手をかざし、試しにイーナの名前を呼んだ。すると、すぐに魔道具が光を放ち、イーナの声が響いた。「アルス、どうしたの?」


「イーナ、聞こえるか?この魔道具を試しているところだ。」アルスは驚きつつも冷静に返答した。


「ええ、はっきり聞こえるわ。通信は完璧ね。」イーナの声も、驚きと興奮を含んでいた。


「素晴らしいです!ナットさん!これで公国全体の連絡網が一気に強化される。ナットさんには本当に感謝しています。」アルスはナットに微笑みながら、球体をそっと返した。


「お役に立てて光栄です。これで、リース帝国や他国とも緊急時にはすぐに連絡が取れますし、戦場でも使えるように改良を進めていきます。」ナットは誇らしげに返事をした。


こうして、アルスラーン公国は新たな魔道具による通信網を手に入れ、外交や防衛においてもさらに強固な体制を築くことができた。


***


その夜、アルスは自室に戻り、静かな時間を過ごしていた。リース帝国との交渉、国内の整備、そして新たな魔道具の導入――すべてが順調に進んでいるように見えたが、彼の心にはまだ一抹の不安が残っていた。外務・商務大臣としての立場もあり、マリアナ王国との関係がどう変わるかも未知数だ。


「次に待ち受けているのは何だろうか…」アルスは、ふと考え込んだ。


だが、その不安を押しのけるかのように、彼は再び決意を新たにした。公国の未来を築き上げるためには、さらなる努力と鍛錬が必要だ。そして、どんな困難が待ち受けようとも、彼は立ち向かっていくつもりだった。


「リエラ、イーナ、ナット、みんなが支えてくれている。だからこそ、俺はもっと強くならなければならない。」アルスは、改めて心の中で誓った。


そして、夜空に輝く星々を見上げながら、彼は静かに目を閉じた。新たな試練に備え、再び明日への一歩を踏み出す覚悟を決めていた。

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