視察④

アルスの提案は魔法で解決をすることであった。

そして魔法を使い水路を作るという提案だ。

まずアルスは農業都市カマ周辺の地図を見てもらうことにした。


「この問題を根本的に解決するためには、まず水の確保を最優先しなければなりません。そこでここを見てください。」


アルスは地図である川を指さした。

その川は、サーナス侯爵領の東側を流れるバーノア川だ。この川は日本で言う一級河川に相当する大きな川で海につながっている。


「このバーノア川から水をひき、水路を作れば安定して水を確保することができると思います。」


アルスが提案すると、モカが待ったをかけた。


「ちょっと待ってくれ、バーノア川はとても大きな川よ。それに水量がとても多いの。水路を作るのは危険ではないかしら?」


モカの指摘は的確だ。

水量の問題である。かなりの勢いで水が流れ込んでくる恐れがある。しかしそれは川から直接垂れ流しで水を引き入れるからだ。この国に水門を利用した水路は存在する。しかしそれらは全て、都市水路であり、引き込んでいる川も小さな川を利用している。大きなバーノア川は危険である為、今までここから水を引くという考えを持つものがいなかった。


「はい、バーノア川の水を直接水路に引くことは困難です。なのでバーノア川の水を貯める場所を作るんです!」


アルスの考えはこうだ。

まず、バーノア川から少し低い位置に貯水池を作り、流れ込む水を一度そこに貯める。さらに水門も設置する。

この貯水池からメインの水路を通し、そこから枝分かれのように水路を整備する。メインの水路はさらにもう一つ作る貯水池に繋がる。ここにも最初の貯水池と同じ様に水門を作り、また水路をつなげ水を流し、最後には海と繋げるという作戦だ。

水路の距離としては、長さおよそ18キロ。農業都市カマはサーナス侯爵領東側の北寄りに位置する。耕作地が広がっているのは、カマの南側の地域であり、海にも近い立地であった。

これなら魔法で早期に整備が可能で、安定した水を確保することができるとアルスは確信した。


「なるほど、確かにそれならいけるかもしれん。モカ、至急農民や手の空いているものを集めるんだ!給金も出そう。資金は私が持つ!至急街の皆に知らせるのだ!!」


「わかったわ!お兄様。知らせを出してきます!」


サノスに指示されると、モカは職員を引き連れて部屋を飛び出していった。


______________________________


今回の水路整備には魔法を使う。この世界では全ての人種が魔法を使うことができる。当然、魔力量や加護によって使える魔法や威力が変わるし、魔法の系統の得意・不得意も関係する。


この世界の魔法には、火・水・土・木・風・光・闇・無の8つ系統がある。

水路整備では土系統の魔法で整備をしようとアルスは考えていた。

なかでも今回は掘削と硬質化を使う。掘削で水路を掘り、土を硬質化で石にする。この二つはどちらも簡単な魔法で魔力量の消費も大きくない。

ちなみに魔法を顕在化させるためには、魔法を唱えることと頭の中で魔法をイメージする必要がある。特にイメージがとても重要で、これができなければ魔法は使えないのだ。


農業都市カマ周辺に住む農民は日頃から掘削を農業に取り入れている。当然魔力にも限界があるため、できる範囲は限られる。しかし、カマには約5万人もの住民が住んでいる。多くが参加してくれれば、問題なく水路を作ることができるだろう。


「よし!いけるぞ!」


アルスは気合が入っていた。

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