平穏?

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その日、マリアナ王宮は一時の平穏を取り戻したかのように見えた。ロフ財務大臣の救出が成功し、王国内の緊張は少し緩んだものの、アルスの表情にはまだ疲れと憂いが残っていた。


「アルス、大丈夫ですか?」イーナが控えめに声をかけた。彼女もまた、救出作戦が成功したことで安堵していたが、アルスの様子が気にかかっていた。


「ありがとう、イーナ。ただ、救出がうまくいったことには感謝しているが、これで全てが終わったわけじゃない。むしろ、これからが本番だ。」アルスは窓の外を見つめながら、深く息をついた。「タニアス王国内の反乱勢力が我々の動きを察知し、報復に出る可能性がある。彼らは今後、さらに過激な行動に出るかもしれない。」


イーナは静かに頷いた。「そうですね。反乱勢力のリーダーであるデネブは、冷徹で計算高い男だと聞いています。私たちの一手にどう反応するか、慎重に見極める必要があります。」


「デネブか…」アルスはその名を口にし、思索にふけった。「彼はタニアス王国の元貴族だが、今は反王政を掲げる過激派のリーダー。彼の目的はタニアスの王政を転覆させ、自らが権力を握ることだ。彼が次にどう出るかが、我々の次の手を決める鍵になる。」


イーナはしばらく考え込んだ後、口を開いた。「もしデネブが再び攻勢に出るなら、こちらも先手を打つべきではありませんか?彼の勢力が弱まっている今が、交渉の好機かもしれません。」


「確かに、それも一理ある。だが、彼が交渉に応じるとは限らない。むしろ、弱みを見せれば一気に攻め込んでくるだろう。」アルスは険しい表情で言った。「それに、反乱勢力が完全に崩壊するまでは、いつまたロフ公爵のような人物が狙われるかわからない。」


「そうですね…。でも、彼らが本当に求めているものが何かを探ることも重要です。私たちが単に軍事的な手段で解決を図るだけでは、再び同じ問題が起きるかもしれません。」イーナは冷静に考えを述べた。


「それもわかっている。」アルスは彼女に感謝の眼差しを向けた。「だからこそ、慎重に進めなければならない。今後の行動はすべて、国の未来に大きく影響を与える。ロフ財務大臣を救出したことは一つの成果だが、これが終わりではない。」


イーナはアルスの強い意志を感じ取り、静かに頷いた。「私も引き続き全力でお手伝いします。今後の対策についても、何かいい案があればすぐにお伝えします。」


「ありがとう、イーナ。」アルスは微笑みを浮かべた。「君の冷静な判断と行動には、本当に助けられているよ。」


その言葉にイーナは照れくさそうに笑みを返した。「国のためですから。それに、アルスと一緒にやることが、私にとっても大きな励みになっています。」


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その後、マリアナ王国内では一時的に安定が訪れたものの、タニアス王国内での反乱の火種は消え去ることなく、依然として燻っていた。アルスとイーナは、次なる試練に備え、さらなる対策を練り始めた。


タニアス王国との関係は、今や非常に微妙な均衡の上に成り立っており、いつそのバランスが崩れてもおかしくない状況だった。デネブ率いる反乱勢力が再び攻勢に出る日が来るかもしれない、という緊張感はマリアナ王国全土に広がっていた。


アルスは心の中で固く誓った。どんなに困難な状況であろうとも、国と民を守るために最善を尽くす。そして、タニアスとの平和を取り戻すために、あらゆる手段を尽くすつもりでいた。


その決意とともに、アルスは次の一手を打つ準備を進めていくのだった。

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