販路
その日の午後、アルスは財務大臣ロフ・フォン・ノスタと宰相ダット・フォン・リータとの会談を控えていた。リース帝国へのオースの特産品輸出についての具体的な計画を話し合うためだ。オースの成功体験を基に、いかにリース帝国との貿易を進めていくか、その道筋を描くことが求められていた。
アルスは王宮の会議室に向かう途中、先ほどのハルナからの手紙を頭の中で再確認していた。彼女の強い希望を叶えるためにも、マリアナ王国側の準備は万全にしなければならない。これが成功すれば、オースの発展がさらなるステージに進むだけでなく、リース帝国との経済的な連携が新たな時代を切り開く可能性を秘めていた。
会議室に入ると、すでにロフと宰相が席に着いていた。アルスはすぐに席に着き、会議が始まる。
「アルス大臣、リース帝国との貿易の話は非常に大きな機会だ。我々としても、これを無駄にするわけにはいかない。」ロフが切り出す。
アルスは頷きながら、オースでの成功事例を簡潔に説明した。「オースでは観光産業に加え、地元の特産品を活用した商業が順調に成長しています。リース帝国の市場にも、同様に地元の特産品を輸出することで、さらなる発展を目指しています。特に、農産物を中心とした貿易を強化するべきだと考えています。」
ダット宰相が冷静に口を開く。「農産物か…確かにリース帝国は広大な領土を有しているが、特定の地域では農産物が不足していると聞く。我々の輸出品がうまくそれを補えるなら、双方にとって利益となるだろう。特に、サーナス領の農業都市カマで生産される高品質な穀物は、試験的に輸出するにふさわしいだろう。」
「その通りです。」アルスが同意する。「カマで生産される穀物や特産品をまずは小規模に輸出し、市場の反応を見ながら拡大を図るべきです。リース帝国での需要をしっかり把握した上で、計画を進める必要があります。」
ロフも深く頷き、考え込む。「試験輸出から始めるのは賢明だな。だが、問題は輸送だ。リース帝国は広大だが、我々からの距離もある。効率的な輸送手段をどう確保するかが課題だ。」
アルスはその点についても準備をしていた。「その点については、既に商務庁と連携を始めています。マリアナ王国内については国鉄で輸送します。商務庁はその先であるリース帝国への主要な輸送ルートを確保し、物流網を整えるための交渉を進めるつもりです。」
会議は順調に進み、貿易に向けた具体的な計画が徐々に固まっていった。だが、会議も終盤に差し掛かると、ロフが少し微笑みながら口を開いた。
「ところで、アルス。リース帝国との貿易も重要だが、もう一つ大事なことがある。婚約についてはどう考えているのかね?」
突然の話題にアルスは一瞬戸惑ったが、冷静に返答した。「今はまだ公私を混同せず、仕事に専念すべきだと考えています。」
しかし、ロフは笑いながら言葉を続けた。「君の母上もリエラとの婚約を検討するよう言ってきたのではないか?それに、リエラは既にオースの代官としてもアルス君と深い関係にある。そろそろ決断を下す時期ではないか?」
その言葉を聞いて、宰相が穏やかな笑みを浮かべた。「婚約か…そうだな、アルス大臣。私の娘、イーナも君の補佐官を務めているが、彼女について考えたことはあるか?」
アルスはその言葉に少し驚いたが、すぐに冷静に対応した。「宰相閣下、イーナは優秀な補佐官です。ですが、婚約については慎重に考えたいと思っています。」
「それはそうだな。」宰相は微笑みを浮かべながらも、どこか含みを持たせた言い方で答えた。「だが、君には多くの選択肢がある。焦らずに決断を下せばいい。」
会議はその後、形式的な挨拶と共に終了したが、アルスの胸には複雑な感情が残った。リース帝国との貿易が新たな展開を迎えようとしている中、個人的な問題が次々と浮上してきたことに、彼は深く考え込んだ。
「まずは貿易を成功させることが最優先だ。婚約の話は…その後だな。」アルスは自らにそう言い聞かせ、再び仕事に集中することを決意した。
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