【完結】天真爛漫な学校のアイドルは同居している従妹で甘えん坊な件

ネコクロ【書籍7シリーズ発売中!!】

第1話「学校のアイドルから彼氏になってくれないかと頼まれたんだが」

「――ねぇ、かける。私の彼氏になってくれない?」


 高校に入学してから三ヵ月が経った頃、学校のアイドル――有栖川ありすがわ美麗みれいに屋上へ呼び出されると、そんなとんでもないことを言われた。


 長く伸ばしているフワフワとした桃色の髪は、思わず目を惹かれてしまうほど美しい。

 パッチリと開いた瞳は、まるで吸い込まれるのではないかと錯覚するほど大きく澄んでおり、筋の通った鼻は海外の人かと思うほどに高い。

 唇も薄すぎず厚すぎない、絶妙な形をしているので、間違いなく美少女に分類される子だと思う。


 何より、彼女が浮かべている人懐っこい笑みは、老若男女ろうにゃくなんにょ問わず、相手を虜にしそうだ。


 正直、学校のアイドルと呼ばれるほどに人気が高いのも、頷けるものだった。


 そんな学校のアイドルからの、告白とも取れそうな発言に対して、俺――神楽坂かぐらざかかけるは、ポリポリと頬を指でかきながら、首を傾げる。


「冗談にしても、タチが悪すぎないか……?」

「本気だよ? 私が頼れる人って翔しかいないし、翔ならいいと思ってるもん」


 美麗とは出会ってからの年数で考えれば、かなり長い付き合いになる。


 なぜなら――俺と彼女は、同い年の従兄妹なのだから。


 しかも何の因果か、誕生日も同じである。

 昔の美麗は、そのことを特別視していたが――俺たちは、小学生の時に疎遠になっていた。


 というのも、彼女の父親と俺たちの祖父が、絶縁となる大喧嘩をしたのだ。

 元々俺は岡山県で、美麗は東京都に昔から住んでいたため、昔は大型連休の際に彼女が両親と共に帰省をしていた。

 だから祖父の家で会っていたのだけど、もう帰省をすることがなくなったせいで、会うことがなくなったのだ。


 そして、再会したのが――入学式の一週間ほど前だった。

 つまり、再会してから三ヵ月ちょいしか経っていないのだ。

 それで彼氏になってと言われても、戸惑うものだろう。


「彼氏がほしいなら、立候補者が沢山いた気がするけど……?」


 入学してからのこの三ヵ月、美麗が告白のために呼び出されたという噂は、嫌というほど耳にしている。

 たった三ヶ月で彼女が学校のアイドルと呼ばれるようになった裏には、そういったかなりモテているという事実が影響しているはずだ。


「だからこそ、翔を頼っているんでしょ? 私の彼氏になってくれたら、もう告白で呼び出されなくて済むし」


 ……ん?


「それってつまり、男除けのために、彼氏になってほしいってことか?」

「うんうん!」


 俺の質問に対して、美麗は一生懸命首を縦に振る。


 ……気負って損した。


「美麗……言葉は正確に伝えてくれ……。つまりそれは、本当の彼氏じゃなくて、彼氏役をしてほしいってことじゃないのか?」

「…………」


 美麗は黙って難しそうな表情で考える。

 そして――ニコッと笑みを浮かべた。


「まぁ翔なら、本当の彼氏になってくれてもいいけど?」

「――っ!」


 気を抜いたところで不意を突かれたので、俺は思わず息を呑んでしまう。

 美麗は天然なのでこれが冗談で言っているのか、本気で言っているのかが判断つかない。


「私、恋愛ってよくわからないし、翔が教えてくれるなら嬉しいかも?」


 どうやら、本気というか、素で言っているようだ。

 この天真爛漫なアイドルは、だいぶタチが悪いと思う。


「彼氏役――というのはわかったけど、本当の彼氏になるのは無理だ」

「……従兄妹だから?」

「違う」


 従兄妹なら法律で結婚も認められているのだし、好きなら俺は気にしない。

 だけど、美麗がどれほどモテていようと、俺は彼女に対して恋愛感情を抱いていないのだから、付き合う気はないのだ。

 そもそも、美麗自身も恋愛がわからないと言っている状態で、本気で付き合うのは無理がある。


 それに、俺には――。


「ふ~ん? もしかしなくても、あの子・・・のこと引きずってる?」


 美麗は、恋愛を知るために付き合うのもあり、みたいなことを本気で言っているからか、俺が断った理由を勘違いしたようだ。

 そしてその勘違いが、俺の根っこにある部分を言い当てているので、なんとも言い難い。

 ある意味、正解だからな……。


「変な詮索はしないでくれ」

「ごめんね、翔に不快な思いをさせるつもりで聞いたんじゃないの。ただ……」

「言わなくていい、言いたいことはわかっているから」


 もう何度も他人に言われてきたことなんだ。

 今更聞きたくはない。


「そっか。じゃあ、話戻すけど、彼氏役になってくれるのはオーケーって考えていいのかな?」


 美麗は何事もなかったかのように切り替えて、笑みを浮かべる。

 この切り替えの早さは、正直言って凄く羨ましかった。


「オーケーも何も、多分このまま付き合わなかったら、学校の噂で俺が美麗を振ったことになるしな……」

「そうなったら、傷心の私に付け込もうと、沢山の男の子が来るかも?」


 笑みを浮かべたまま、楽しそうに首を傾げる美麗。

 男子たちに告白をされることで、困っているはずなのに、この笑顔は――俺がどう答えるか、わかっているのだろう。


 そもそも、どうしてここで付き合わなかったら、俺が美麗を振ったと学校中が噂を立てるのか――それは、美麗がクラスメイトたちの前で、意味深な様子で俺を屋上に呼び出したからだ。


 あの時のクラスのざわつきようったら、ほんと酷かった。

 幸い、美麗と俺が同じクラスだったから大っぴらに聞くことはしなかったようだけど、もし美麗が別のクラスだったら、俺はクラスメイトたちから詰め寄られることになっていたかもしれない。


「狙ってクラスで呼び出したんだよな? 彼氏役って話なら、わざわざ屋上でしなくても家ですればいいんだから」


 なんせ、美麗は三ヵ月と少し前から、俺の家に住んでいるのだから。

 わざわざ外で話す必要はない。

 だから、俺の逃げ道を塞ぐために、あんなことをしたんだろう。


 とはいえ、美麗はこういった策を巡らせるタイプではない。

 おそらく、入れ知恵をしたのは――。


「まぁ私は、まなちゃんに言われた通りにしただけなんだけどね」


 やはり、愛――俺の妹だったか……。

 

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