第25話「偽カップル」

「――それじゃあ、俺は戻るから」


 美麗を寝かしつけた後、俺は部屋を出ようとしながら村雲にそう伝えた。

 しかし――。


「あぁ、それじゃあ男子部屋まで送るよ」


 なぜか、村雲はついてくるようだ。


「必要ないぞ……?」


 どう考えてもおかしいので、俺は警戒しながら断る。

 だけど村雲も退く気はないようだ。


「いいからいいから」


 笑顔でそう言いながら、俺の背中を押してきた。

 キザな男の口調で喋っていても、体は女の子なので力は弱いのだが。


「押すなよ……」

「いいじゃないか」

「唯今さん、私たちも――」

「ごめんね、翔君と話したいことがあるんだ」


 やはり、村雲は何か二人きりになりたい理由があるようだ。

 ここ最近の村雲は変だから、あまり二人っきりになりたくはないが――ここまであからさまな動きを見せた以上、そろそろ向き合ったほうがいいのかもしれない。

 先延ばしにすれば、ややこしいことになる可能性もある。


「仕方ないな……」

「ふふ、そうやって折れてくれるところ、好きだよ」

「勘違いされるからやめてくれ」


 後ろで聞いてた女子たちの目が、鋭くなったじゃないか。


 この部屋の女子たちは、村雲にガチ恋してるのが多いしな……。


 そのまま俺たちは、部屋を出るのだが――。


「外に出ない? ほら、山の中だし、夜空が綺麗だと思うよ?」


 また、村雲がめんどくさいことを言ってきた。


「部屋に送ってくれるんじゃなかったのか?」

「寄り道くらいしてもいいでしょ?」

「といっても、消灯の時間だってあるんだが……?」

「消灯時間は22時だったはずだね。まだ21時をすぎてそんなに経ってないし、大丈夫だよ」


 どうやら、村雲は譲るつもりがないらしい。

 いったい何を考えているのか知らないが、厄介なことになったものだ。


「それを他の生徒たちに見られた場合、誤解を生むというのはわかっているんだよな?」

「別にいいんじゃない? 少なくとも、有栖川嬢はたいして気にしないでしょ? なんせ――」


 笑顔で話していた村雲は、突然試すような目を俺に向けてくる。


「君たち、偽カップルなんでしょ?」

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