第10話「君って結構鬼畜だよね」

 休み時間――。


「うん、君って結構鬼畜だよね?」


 そう言ってきたのは、唯一仲がいい男友達の、武藤むとう和輝かずきだった。

 先程、林間学校の班員として村雲を誘ったと伝えたのだけど、嫌だったらしい。


「なんか不満があるのか?」

「はは、よく考えてみてよ。クラスどころか学校で一番人気の有栖川さんだけでなく、クラスで次に人気な村雲さんまで同じ班だって? 男子から恨みを買うに決まってるじゃないか」


 まぁそれはその通りで、美麗や村雲と同じ班になろうと、目を吊り上げて狙っている男子たちはいる。

 なんなら、俺にも何人か直接交渉してきたくらいだ。

 当然、狙いが見え見えなので断っておいたが。


「事の成り行きでそうなったんだ、納得してくれ」

「まずは相談というのをしてほしかったね……」

「文句なら、あちらにどうぞ?」


 俺は、ご機嫌な様子でこちらを見ている美麗のほうを手でさす。

 それによって和輝が美麗を見ると、美麗は笑顔で手を振ってきた。


「言えるわけないじゃないか、彼女に文句なんて」

「でも、村雲を誘うって決めたのも、実際に誘ったのもあいつだから、嫌ならあいつに言ってもらうしかないんだが?」


 言ったところで美麗がやめるとは思わないけど。

 村雲まで話がいった以上は、取り消したりなどしないだろう。


「というか、村雲と結構話してるから仲いいと思ってたんだが? だから、問題ないと思っていたわけだし」

「いや、結構話すのは、君のところに彼女が来るからじゃないか。個別に話すことってそうはないよ?」

「あれ、そうなのか?」


 俺がいないところでの状況なんて知らないから、てっきりよく話すのだと思っていた。

 となれば、和輝が渋るのも当然か。

 今更だけど、悪いことをしてしまったな。


「ねぇねぇ、そろそろ話に入ってもいい?」


 待ちくたびれたのだろうか?

 美麗が近付いてきて、俺の服の袖を引っ張ってきた。


「話に入りたかったなら、入ればよかったのに」

「私だって、たまには空気を読むんだよ?」


 たまになのか。

 まぁそれはいいとして……。


「いちいち気にせず入っていいぞ? うるさく言う奴もいないし」


 和輝や村雲は来る者拒まずって感じだ。

 二人とも優しいし、だから俺とうまくいっているところがある。


 ……そういえば、その村雲はどうしたのだろう?

 普段なら俺たちが話していると来るはずなのに、全然来ない。


 そう思って教室を見回してみると、一か所で女子たちが固まっているところがあった。

 その中心に、村雲の姿が見える。


「――なんで、美麗ちゃんと一緒の班なの……!?」

「私たちが先に誘ってたよね!?」

「それよりも、私たちのほうが――」

「みんな、落ち着いて。僕も色々と考えたんだよ。それに、返事は保留にさせてもらってたから――」


 うん、どうやら女子たちに問い詰められているようだ。

 何人かに誘われているとは言っていたけれど、あれ、クラスの大半の女子が集まっていないか?

 どんだけモテているんだよ。


「わ~、凄い人気だね?」

「どうして美麗は他人事なんだ? 村雲を困らせてる元凶は、美麗だぞ?」


 ポカーンと見ている美麗に対し、俺は苦笑いを向けてしまう。


「だって、村雲さんの意思で決めたことだからね。私たちがとやかく言うのは違うと思うよ? 別に強制もしてないもん」

「確かに、村雲が決めたことではあるけど……」

「私があそこに混ざったら、今度はこっちに矛先が向くよ?」


 それもそうか。

 見方によっては、美麗は泥棒猫だもんな。

 本人にその気がなくても、村雲をとられた女子たちは横取りされた気分だろうから。


 美麗を敵に回したくなくて今は何も言ってきていないが、あそこに美麗自ら飛び込めば、矛先は向けられるだろう。


「まぁそれじゃあいっか。村雲ならうまくやるだろうし」

「うんうん。それよりも、女の子後一人だけど、あの子どうかな?」


 美麗は笑顔で頷いた後、教室の隅の席にポツンッと座っている少女を指さした。

 村雲と同じボブヘアーだけど、黒一色で前髪が長いため、おとなしめの印象を受ける。


 確か名前は、花巻はなまき静香しずかさんだ。

 彼女は小柄なので、小動物のような印象を俺は勝手に抱いている。


「俺、ほとんど話したことないけど、美麗は仲がいいのか?」

「うぅん、私もほとんど話したことないよ?」

「……いや、じゃあなぜ誘うんだ?」


 てっきり仲がいいから誘いたいのかと思ったが、話したこともないのに誘うなんて意図が読めない。


「こういう行事って、今まで仲良くしてこなかった人と仲良くなるチャンスだし、あの子おとなしいから、翔の悪口を言わなそうだと思っていいかなって」


 あくまで美麗は、俺に悪口を言わないという判断基準で、メンバーを決めているようだ。

 確かに、彼女なら文句を言わないだろうけど……。


「それに、こういうと可哀想だけど、多分他の人と組めずに残っちゃいそうだからね。早めに声をかけてあげたほうが、あの子もいいかもしれないよ?」


 花巻さんはいつも一人でいる。

 こういうグループ作りとなると、浮く可能性があるのは十分に考えられた。


「和輝はどう思う?」

「いいんじゃないかな、彼女なら。とりあえず僕たちの胃には優しそうだ」


 周りから嫉妬されなくて済む、ということなのだろう。

 その発言は、花巻さんに失礼だとは思うが……。


 とりあえず、村雲には聞かなくていいだろう。

 女の子なら喜んで迎え入れる奴だからな。


「俺たちが誘うより、美麗から言ってもらったほうがいいと思うから、任せていいか?」

「んっ、もちろん。でも、翔も一緒に来てよね?」

「俺いるか……?」

「いる」


 美麗が有無を言わせないように頷いたので、仕方なく俺も美麗について行くのだった。

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