第3話「従姉妹たちはお風呂場でじゃれ合う」

「――まったく、美麗姉さんはいつも強引なんですから……」


 脱衣所に入ってからというものの、従妹の愛ちゃんはプリプリと怒ってしまっていた。

 私と翔よりも一つ下のせいで、大人ぶろうと昔から敬語を使っていたけれど、こういうところはやっぱり子供だ。


「だって、久しぶりに一緒に入りたかったんだもん」

「もう私たちは中学三年生と高校一年生なんですよ?」

「いいじゃんいいじゃん、修学旅行とかだと、友達と一緒に入るんだしさ」

「お風呂の大きさが違うかと――って、ちょっと!?」


 愛ちゃんが脱ぎ終わったので、ブツブツ言っている間に背中を押して風呂場に連れて行く。

 この子は翔と違って几帳面で、お説教が長いんだもん。


「洗いっこしよっか?」

「えっ!? い、いいです……!」


 愛ちゃんは顔を赤くして私から逃げようとする。

 だけど、ここは狭いお風呂場。

 逃げられるスペースなんてなし。


「はい、つっかまえた!」

「もう、放してください……!」

「いいじゃんいいじゃん、女の子同士なんだし。ほら、座って」

「うぅ……」


 愛ちゃんは諦めたように、バスチェアに腰を下ろす。

 この子、意外と押しに弱いんだよね。

 よく男の子たちに押し倒されないな~って思う。


「力抜いてね」

「んっ……」


 私は優しく愛ちゃんの髪を洗ってあげる。


 綺麗な黒髪、羨ましい……。


 自分の髪色もかわいくて好きだけど、愛ちゃんのような黒髪にも憧れる。

 翔ともお揃いだし、いいなって思うの。


 丁寧に髪を洗った後は、ボディーソープを手に付けて、愛ちゃんの首に触れる。


「ひゃっ!? み、美麗姉さん、タオルでいいのでは!?」

「え~? せっかくだし、このまま洗っちゃう」


 愛ちゃんの反応が面白くて、私はつい調子に乗って手を滑らせる。

 すると――。


「んんっ……!」


 愛ちゃんの大切な部分を勢いよく擦ってしまい、愛ちゃんがビクンッと体を大きく震わせた。


「姉さん……!?」

「あはは……ごめんなさい」


 愛ちゃんが顔を真っ赤にして睨んできたので、私は笑って誤魔化す。

 やっちゃった。


「もういいです、自分で洗います……!」

「待って待って、わざとじゃないから……!」


 そう、わざとじゃない。

 ただ調子に乗って、勢いよく滑っちゃっただけで。


「むぅ……」

「頬を膨らませて拗ねないで。大丈夫だから」


 私は警戒してくる愛ちゃんをなんとか宥めながら、もう一度バスチェアに座ってもらう。

 そして丁寧に手で洗っていくものの――。


「ふっ……んっ……」


 愛ちゃんは、凄くくすぐったそうにしていた。

 声を出さないように手で口を押さえているから、他の人に洗われるとくすぐったいのかな?

 私は自分で洗おっと。


「そ、そんなところはいいですよ……!? 汚いですから……!」

「いいからいいから、愛ちゃんに汚いところなんてないよ」

「美麗姉さん、楽しんでるでしょ!? あっ、だめぇ……!」


 だって、愛ちゃんがいい反応をするんだもん。

 そういう言葉は飲み込んで、逃げたそうにする愛ちゃんの体を隅々まで洗ってあげた。


「――はぁ……はぁ……次は、私の番ですね……!」


 洗い終えると、顔を赤くした愛ちゃんがタオルで体を隠しながら、私を恨めしそうに見てくる。

 なんだか仕返しをしたそうだ。


「先にお風呂入っちゃっていいよ? 体冷えちゃうし」

「そうはいきません……! やられたままでは終わりませんよ……!」


 う~ん、ほんとこの子、普段清楚で上品なのに、根は子供だよなぁ。


「じゃあ、はい」


 私は、お風呂場にかけてあった体を洗う用のタオルを渡す。

 手でされるのはくすぐったそうだから、こっちなら安心。


「ずるいです……」

「優しくお願いします」


 私はバスチェアに座り、愛ちゃんに背中を差し出す。

 鏡に映っている愛ちゃんは凄く不満そうだけど、一度タオルを膝にかけて、頭を洗い始めてくれた。

 怒っているのに、手つきはとても優しい。

 この子は根が優しいから、相手にいじわるとかができないのだ。


 ――と、思っていたのだけど……。


「ひゃんっ!?」


 コンディショナーを流してもらった後、突然胸に電気が走ったような感覚に襲われ、私は声をあげてしまった。


「愛ちゃん……!?」

「ごめんなさい、美麗姉さん。手が滑ってしまいました」


 目を開けて鏡越しに見ると、愛ちゃんはニマニマといじわるな笑みを浮かべていた。

 前言撤回。

 この子、やっぱり翔の妹だけあって、意外といじわるだ。

 翔も普段優しいのにたまにいじわるをしてくるから、こういうところは兄妹だと思う。


「それにしましても……」

「ちょちょちょ、ちょっと愛ちゃん!? それはやりすぎじゃないかな!?」


 モミモミと遠慮なく揉んでくる愛ちゃんに対し、私は顔が熱くなるのを感じながら注意する。


 こんなことする子じゃなかったはずだけど!?

 ちょっと、くすぐったいってば!


「いったい何を食べたらこんなふうになるんですか……?」


 どうやら愛ちゃんは、好奇心というか、私の胸の大きさに興味を抱いているようだ。

 それで揉まれるほうの身にもなってほしい。


「D……いえ、Eはあるでしょうか……?」

「こ、こら、やめてってば……! ちょっ、ほんとだめ……!」


「従姉妹ですから、同じ血も入っているはずですのに……やっぱり、お母さんの大きさが全然違うことに理由が……」

「聞いてる!? 聞いてないよね!? お願いだからやめてってば……!」


「…………」

「無言は怖いんだけど!? ごめん、私が悪かった……! 悪かったから、許して……! あぁ、もう……翔、助けてぇ!」


 全然放してくれない愛ちゃんに降参し、私は思わず翔に助けを求めてしまうのだった。

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