第12話「結婚するなら翔としたい」

「――つかれたぁ……」


 学校が終わり、家に帰ってくるなり美麗はリビングのソファに横になった。

 スカートがめくれあがり、下着がギリギリ見えるか見えないかの状況になっているので、目のやり場に困る。


「着替えてから休んだらどうだ?」

「無理、動きたくない」


 どうして美麗がここまで疲れているのか。

 その原因となった出来事は、林間学校の班決めの際に起きた。


「みんな、決まったことに文句言いすぎだよ……!」

「仕方ないだろ、美麗や村雲と一緒の班になりたかった奴は、多いんだから」


 そう、案の定というか、美麗や村雲が同じ班になったことを班決めの際にも持ち出され、クラス内で争いが起こったのだ。

 もともと女子のほうでは村雲を巡って文句が飛び交っていたけれど、そこに美麗や村雲と同じ班になりたい男子たちが加わった形になる。

 最終的にはくじ引きにするという案まで持ち出されたが、なんとか美麗と村雲のカリスマで乗り切った。


 ちなみに、残り一枠の男子は、花巻さんのようにおとなしい男を選んでおいた。


「お疲れ様」


 ふて腐れている美麗の頭を撫でて、頑張りを労っておく。

 周りの目を気にする美麗がいっさい退かなかったのは、それだけあのメンバーで班を作りたかったのだろう。

 よく頑張ったと思う。


「んっ、翔ここ座って」


 美麗はなぜかポンポンッとソファを手で叩く。


「いや、座れって……美麗の頭があるから無理だぞ?」


 現在美麗が横向きに転がっているので、座れる場所などない。

 座ろうとすれば、美麗の頭をお尻に敷いてしまうレベルだ。


「いいから早く。座る時は避けるから」


 なんだか美麗急かしてくるので、俺は指示に従う。

 確かに俺が座る際には、美麗は頭を避けたのだけど――。


「よいしょっと」


 座った俺の足に、平気で頭を乗せてきた。


「美麗?」

「ふふ~ん、膝枕~♪」


 どうやら美麗は、膝枕をしてほしかったらしい。

 甘えん坊か。


「欲望に忠実だな?」

「頑張った私は、甘やかしを要求します」


 そうドヤ顔で言ってくる美麗。

 こういうところは素直にかわいいと思う。


「はいはい、よしよし」

「なんかてきとー!? もっとちゃんと撫でてよ……!」


 頭を軽めに撫でると、美麗の反感を買ってしまった。

 別に、てきとーに撫でたわけではないが……。


「こうでいいのか?」

「んっ……そうそう」


 優しく頭を撫でると、満足そうに美麗は頬を緩めた。

 本当に素直だ。


 美麗がこれだけ甘えん坊だということを、学校で知っている生徒がどれだけいるのだろうか。

 さすがに、ここまで素直に甘えているところは学校で見たことがないので、多分ほとんどの生徒が知らないと思う。

 そういう一面を自分だけは知っているというのは、少し嬉しいものがあった。


「…………」

「――っ!?」


 何か視線を感じた気がし、パッとドアのほうを見ると、デジャヴかと思うような光景があった。

 そう、愛がドアの隙間から俺たちを見ていたのだ。


「愛、何してるんだ?」

「いえ、お邪魔かと思って、入るタイミングを窺っていたのです」


 愛はリビングに入ってきながら、若干不機嫌そうにジト目を向けてくる。

 ここ数日不機嫌になってばかりだな。


「別に気にせず、入ってきたらいいじゃないか」

「私はちゃんと空気を読める女の子なので。それよりも、美麗姉さん」

「ん、なに?」


 愛が美麗にもの言いたそうな目を向けてきたので、美麗は不思議そうに愛を見上げる。

 頭は、相変わらず俺の膝の上に置いたままだ。


「制服のままソファに寝転がるのは、行儀が悪いと思います」

「え~、いいじゃん」

「女の子なのですから、もう少し気を付けてください。下着が兄さんに見えてしまいますよ?」

「いいよ、翔なら」

「美麗姉さん……!」


 呑気な美麗に対して、珍しく愛が声を荒げる。

 几帳面な愛にとっては、美麗の行動が目に余ることが多いのだろう。

 美麗は美麗で、愛のこういう口うるさいところは、ちょっと苦手としているようだ。

 もうこの辺は性格のため、仕方ないと思う。


 俺だって、愛はちょっとうるさいな~と思う時があるのだし。

 そして、美麗のような下着が見えそうになる体勢をとられるのも困るので、どっちもどっちだ。


「むぅ……」

「今回は愛が言っていることが正しいよ」


 美麗が頬を膨らませたので、不満を爆発する前になだめる。

 そうしていると――。


「兄さんも、制服を着たまま何をしているんですか? そういうことは、着替えてからにしてください」


 俺に飛び火してきた。

 いやまぁ、愛が言っていることが正しいから、仕方ないのだけど。


「ごめんな、愛」

「いえ……私も、着替えてきます」


 謝ると、少し冷静になったのか、愛は踵を返す。

 そして一人で先に、自分の部屋に戻ったようだ。


「愛ちゃんって、お母さんみたいなところがあるよね?」

「しっかりしているんだよ。実際、家事は愛がしてくれているんだし」


 俺の家は昔から両親が共働きで、夜遅くに帰ってくる。

 そのため、愛がいつも家事をしてくれているのだ。

 ちなみに、美麗は俺と同じく家事ができない。

 だから俺たちは、愛に頭が上がらない部分があった。


「愛ちゃんは、いいお母さんになりそうだよ」

「お母さんか~。愛に相応しい男が見つかるといいけどな」

「翔って、いざ愛ちゃんが彼氏連れてきたら、怒りそう」


 怒るだろうか?

 多分愛が認めた人なら、俺以上に勉強や運動ができて、誠実なしっかりものであれば、俺はあっさりと認めると思う。


「必要最低限の基準を満たしてたら、とやかくは言わないよ」

「その最低限の基準が高そうだけど――まぁいっか」


 興味を無くしたのか、美麗は視線を俺から外した。


「それよりも、私や翔もいつかは結婚するのかな?」

「俺はともかく、美麗はするんじゃないか?」


 美麗ほどモテるなら、結婚相手を探すのも苦労しないだろう。

 俺はそもそも、結婚をするどころか、誰かと付き合うつもりもない。


「ん~、恋愛ってやっぱりわからないし、結婚する必要があったら、翔としたいな~。一緒にいるの好きだし、気楽だもん」


 美麗は深く考えていないのだろう。

 俺じゃなかったら、普通に勘違いしそうな発言だ。


「早く恋愛がわかるといいな」

「むぅ、自分はわかっているからって、余裕な態度はどうかと思う」

「そういうつもりじゃないんだが……」


 この後は、なぜか拗ねてしまった美麗のことを宥め、着替えを終えて戻ってきた愛に再度注意されてしまうのだった。



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【あとがき】


読んで頂き、ありがとうございます(#^^#)


話が面白い、キャラがかわいいと思って頂けましたら、

下にある作品フォローと評価☆☆☆を★★★にして頂けると嬉しいです(≧◇≦)


これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪

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