第15話「従妹がめちゃくちゃ弱かった件」

「――ふふ、林間学校だぁ~!」


 あれから一週間近くが経ち、今日から林間学校に行く。

 そのため、ここ数日の美麗はテンションがめちゃくちゃ高かった。


「お二人とも、気を付けて行ってきてくださいね」

「ありがとう、行ってきます」


 愛が笑顔で送り出してくれたので、俺も笑顔を返す。

 しかし――。


「泊まりだからといって、羽目を外しすぎないでくださいね?」


 なぜか、プレッシャーをかけられてしまった。

 おかしいな?

 笑顔なのに、汗が出てきたぞ?


「お土産買ってくるね」


 そして純粋な美麗は、愛のこの圧に気付かない。

 本当に、この純粋さがたまに羨ましく思う。


「修学旅行じゃなく林間学校だから、お土産は買えないと思うぞ?」

「嘘!?」

「あと、そんなに遠くに行くわけじゃないから、お土産を買ったところでなぁ……」


 行くのは同じ県内なのだ。

 買ったところで、ありがたみは然程ないだろう。


「むぅ……」


 俺の発言が気に入らなかったようで、美麗は頬を膨らませて不満をアピールしてきた。

 拗ねているようだ。


「怒るなよ」

「翔は、すぐ正論を突き付けてくる……!」

「正論の何が悪いんだ?」


 ――と、返すものの、わざわざ美麗の機嫌を悪くする必要もない。

 せっかく、林間学校に行くのを楽しみにしているのだから。


「ごめんな?」

「んっ……」


 頭を撫でて謝ると、美麗の膨らんでいた頬はたちまちしぼんでしまった。

 甘やかすだけで留飲が下がるので、こういうところもいいと思う。

 しかし――。


「ナチュラルに、目の前でいちゃつかないでくれますか?」


 愛からは、白い目を向けられてしまった。

 どうした愛、最近やけに短気になっているぞ?


 ――とは、さすがに言えない。


「いちゃついてはないだろ?」

「鏡をお貸ししましょうか?」


 うん、本当に不機嫌だ。

 これはソッとしておいたほうがいい。


「いや、もう行かないと駄目だから。美麗、行こうか」

「んっ、愛ちゃんお留守番よろしくね!」


 こうして、俺たちは林間学校に向けて出発した。


         ◆


「翔、翔」


 バス内、窓から外の景色を眺めていると、美麗が服の袖をクイクイッと引っ張ってきた。

 バスの席は事前に決めていたのだけど、美麗は猛者もさムーブというか、持ち前のカリスマを発揮して、ちゃっかりと俺の隣を確保している。


「どうした?」

「トランプしない?」

「暇ってことか?」

「んっ」


 美麗はコクリと頷く。

 本当に素直な奴だ。


「といって、二人でやってもなぁ……」

「では、僕も参加しようじゃないか」


 聞き耳を立てていたのか、俺の前に座っていた村雲が、笑顔で振り返ってきた。

 その隣では、美麗と村雲のごり押しにより席を確保した、花巻さんがソワソワとしながら、仲間に入りたそうにしている。

 二人ともやりたいようだ。


「でも、二人は後ろ向きながらだとしんどいし、酔うんじゃないのか?」

「おっと、博識の翔君らしくない。今の時代、バスの座席は回転式なのだよ」


 なんだか、村雲が凄いドヤ顔で言ってきた。

 別に博識じゃないんだが。


「花巻さん、ちょっといいかな?」

「あっ、んっ……」


 村雲が笑みを向けると、花巻さんは落ち着かない様子で立ち上がる。

 そして、村雲が席を回転させて、まるで電車の座席かのように、俺たちと向かい合わせにした。


「おぉ、これなら四人でできるね」


 遊ぶ人数が増えたことで、美麗は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 しかし、俺は周りから受けるプレッシャーが増した気がし、少し胃が痛くなった。


 おそらく、人気者の美麗や村雲と一緒に遊べることを、ねたまれているのだろう。

 まぁ気持ちはわからなくもない。

 周りからしたら、この中に入ろうとするのは難しいだろうし。


「何するんだ?」

「ん~、最初はやっぱり、ババ抜きかな?」


 最初は、ということは、何回もトランプをするつもりなのだろう。

 バス内ということであまりスペースもとれないし、ババ抜きくらいがちょうどいいか。


「じゃあ、始めようか」


 村雲が率先してシャッフルを始める。

 そして、パパパッと均等に手札を振り分けると、早速ババ抜きがスタートしたのだが――。


「むぅ……!」

「あぅっ、また負け……」


 美麗と花巻さんが、びっくりするレベルで弱かった。

 二人とも、すぐに顔に出すぎだ。


 逆に、村雲がめちゃくちゃ強い。

 ポーカーフェイスじゃなく、表情で心理戦を仕掛けてくるのだ。


 一回ずつ回り順は変えているが、それでも1位は村雲、2位が俺、3位と4位が美麗と花巻さんだった。

 二人の戦いは、大体運勝負になってしまっている。

 正直どんぐりの背比べだ。


「次、大富豪……!」


 どうやら、ババ抜きでは勝てない、と美麗は諦めたようだ。

 だけど、大富豪こそ駆け引きや先の展開を読む力が必要となり――。


「むぅううううう!」


 美麗が、ぼろ負けしていた。

 革命をしたとしても、俺か村雲が返してしまうし、単純な駆け引きでは俺や村雲に軍配ぐんばいが上がる。

 それだけではなく、花巻さんも大富豪だと美麗より強いようだ。

 結果、美麗の一人負けになっていた。


 ちなみに、1位に関しては、俺と村雲のいい勝負になっている。

 一応、終盤に来る美麗のやけくそな動きを読んでいる俺のほうが、勝率が高かった。

 そのまま、大富豪で勝負をしていくものの――。


「もう、寝る……!」


 ボコボコにされた美麗は、子供のように拗ねて俺の腕に抱き着いてくるのだった。


 ――いや、うん……まぁ、ちょっとやりすぎたかもしれない。

 でも、手加減をすれば逆に怒るのが美麗だし……これも、仕方がないと思った。

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