第23話「容赦がない二人」
「――翔、ほら行くよ?」
風呂に入り、食事も終えて部屋でのんびりしていると、美麗が俺の部屋に乗り込んできた。
男子部屋に平然と来るところが、この子の凄いところだろう。
「「「「「…………」」」」」
そして、同部屋の男子たちが凄い目を向けてきた。
まるで親の敵を見るかのような、恨みに満たされた目をしている。
もしかしたら俺は、この部屋で寝ないほうがいいのかもしれない。
というか、恨むくらいなら声を出して自分も行くと言えば、女子部屋に行けるんだけど……そういう奴は一人もいないんだな。
俺としても、和輝以外にはわざわざ声をかける義理はないから、声はかけないが。
和輝は既に行かないと答えているし。
「女子たちでやればいいのに」
俺は美麗と一緒に部屋を出ながら、思っていることを伝える。
「駄目だよ、翔に勝ちたいんだもん」
美麗はプクッと頬を膨らませて、拗ねた目を向けてきた。
まったく、子供というか、なんというか……。
まぁ、こういうところが美麗のかわいいところだろう。
「――緊張するなぁ……」
女子部屋の前まで来た俺は、中に入るのを躊躇してしまう。
「翔って、緊張することあるんだ?」
「俺をなんだと思ってるんだよ……? 女子だけの中に男子が一人入るなんて、緊張するに決まってるじゃないか」
これがまだ、他の女子たちと仲良くやっているなら問題はない。
だけど俺は、仲良くするどころか、どっちかというと馬が合っていないほうだろう。
正直、歓迎されない気しかしない。
「いつも通り堂々としてればいいのに」
「無茶言うなよ」
「まぁいいや。みんなを待たせてるから、早く中に入ろ?」
美麗はそう言いながら、笑顔で
すると、中にいた女子たちの視線が一斉にこちらに向いた。
「みんな~、翔連れてきたよ~」
「ふふ、待っていたよ翔君。さぁ、今度こそ僕との決着をさせようじゃないか」
食事の時はくたびれていたはずなのに、いつの間にか村雲が復活していた。
なんで食事の時はあんなにぐったりとしてたんだろうか?
珍しい姿だな、と思って気になっているんだが。
「あっ、えっと……」
歓迎してくれた村雲とは反対に、花巻さんは落ち着きなくソワソワとし始める。
チラチラと俺を見てくるが、多分怖がられているのだろう。
変に話しかけないほうが良さそうだ。
「それで、また大富豪をするのか?」
「んっ……! 今度は勝つから……!」
「仕方ないな」
こういう時、美麗が言い出したら聞かないというのはわかっているので、俺は美麗の斜め左に座る。
すると、俺の斜め左に村雲が座り、困ったようにキョロキョロとした後、花巻さんが俺の前に座った。
どうやら、バスと同じでこの四人でやるらしい。
他の女子たちは混ざらず、俺たちを見ているようだ。
「それじゃあ、僕がきるね」
そう言って、村雲がシャッフルを始める。
彼女は手慣れたようにシャッフルすると、そのままパパパッとみんなにカードを振り分けた。
そして、開始すると――。
「はい、革命!!」
中盤に差し掛かったところで、美麗が7を四枚出してきた。
「じゃあ、革命返し」
そして俺は、5を四枚出した。
「またぁ!? なんでそう、革命返しできるの!? ずるしてない!?」
「美麗がわかりやすすぎるせいだ」
美麗の場合、革命ができる手札になっていた時は、予め強いカードをバンバン出していく。
そして、手札にある同じ数字を固めて持つ癖があり、革命ができる時はそれまで必要な四枚のところを触ろうとすらしない。
その動きから、あぁ革命する気なんだな、とわかるため、それに合わせて準備しているのだ。
ただ、毎回こちらも革命を返すカードが揃うわけじゃなく、そういう時は村雲が返している。
俺と同じく、美麗の動きを理解しているのだろう。
ちなみに、美麗が革命して俺も村雲も返せない時は、お互い美麗に合わせて強いカードをすぐ切っている。
だから、美麗が強いカードをすぐ出した時、俺が強いカードを出せば、村雲は俺に革命返しができるカードがないと判断するし、逆に村雲が強いカードを出せば、村雲に革命返しするカードがないとわかるのだ。
そして二人ともが強いカードを出した場合は、お互い革命返しをすることができないということになり、美麗が革命をした時に向けて準備を始める。
そのため、革命をした後も純粋な駆け引きになり、美麗は俺たちに勝てないのだ。
「――もぉやだぁあああああ!」
あれから何戦しただろうか?
負けるたびにムキになって挑んでくる美麗の相手をしていたが、ついに涙目で美麗が俺にしがみついてきた。
心が折れたらしい。
「神楽坂君と唯今さんが、美麗ちゃん相手に容赦なさすぎる……」
普通、ぼろ負けしている子がいたら、手加減をしてあげるのだろう。
だけど俺と村雲は容赦なく美麗の思惑を潰す動きをしていたので、女子たちがちょっと引いていた。
まぁでも、手加減すると美麗が怒るんだから、仕方がない。
「はいはい、泣かない泣かない」
「ぐすっ……かけるのばぁか……」
泣いてぐずる美麗の頭を撫でると、美麗は俺の顔に自分の顔をこすりつけてきた。
完全に拗ねている。
そんな俺たちのことを、女子たちが興味深げに見ていた。
こういう美麗は新鮮だし、甘やかす俺も珍しいのだろう。
どう声をかけてくるか――そう気にしていると、女子の一人が代表して口を開いた。
「――ねぇねぇ、美麗ちゃんと神楽坂君って、どこまでいったの?」
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