第30話「二人で見つけていこう」

 そうして、夜になると――。


「…………」


 美麗は、当たり前のように俺の隣に座ってきた。

 現在はキャンプファイヤーをみんなで囲み、有志による出しものを眺めている。


 そんな中、美麗は――なぜか、キャンプファイヤーでも出しものでもなく、月を見上げていた。


「見ないのか?」

「見てるよ? お月様を」

「いや、違うだろ……」


 わざわざ月と言ったということは、俺が何を言いたいかわかっているんだろう。

 こういう時美麗は喜んで出しものを見るタイプなのに、つまらないのだろうか?


「私ね」

「ん?」

「翔が村雲さんと二人きりで月を見に行ったって聞いて、嫌だった」


「……それは、どういう意味でだ?」


 美麗は恋愛を理解していない。

 本人もわからないと言っている。

 それならば、この感情は何からくるのだろうか?


「わかんない。お兄ちゃんをとられたくない気持ち?」

「なんだそれ」


 予想外すぎたので、思わずクスッと笑ってしまう。

 美麗の奴、俺のことを兄と思っていたのか。


「わかんないよ……! 私、翔ほど経験豊富じゃないもん……!」


 しかし、美麗は俺が馬鹿にしていると思ったようで、頬をパンパンに膨らませて怒ってしまった。

 別に馬鹿にしたつもりはなかったんだが……。


「何をそんなに怒ってるんだ?」

「翔が馬鹿にしたから……!」

「してないよ、ちょっとおかしかっただけだ」

「それを馬鹿にしてるって言うんです……!」


 美麗はわざとらしく敬語を使ってくる。

 完全に拗ねているようだ。


「馬鹿にはしてないって。美麗がわからないっていうなら、それでいいんじゃないか? どうせ、いつかはわかると思うし」

「じゃあ、翔が教えてよ」

「は?」


 とんでもないことを言われ、俺は美麗の目を見つめてしまう。

 美麗は頬を膨らませながら、何かを訴えかけるようにジッと見つめ返してきていた。


 教えるって、そういうことだよな……?


「俺のこと、好きじゃないんだろ……?」

「好きだよ、恋愛感情かどうかわからないけど……!」


 いや、それは今まで恋愛感情じゃないと思っていた、『好き』じゃないのか?


 そうツッコミを入れようと思ったものの、これ以上美麗を刺激するのはまずい。

 大富豪でもわかる通り、熱が入るとムキになるタイプだからな……。


「焦らなくていいじゃないか。俺が教えなくても、美麗ならいずれわかるよ」

「そんな言葉では騙されませ~ん」

「いや、騙す気とかないけどさ……」


 困った、既に結構ムキになっている。

 幸い他の生徒たちは出しものやキャンプファイヤーに夢中になっているからいいが、あまり踏み込んだ話をここでしたくないぞ?


 どうするべきか――。


 そう悩みながら視線を彷徨わせると、村雲と目が合った。

 そして、パチッとウィンクをしてくる。


 あいつ、俺たちのことを最初から見ていたな……。


「むぅ……!」

「――っ!? な、なんだよ……!?」


 村雲に視線を向けていると、美麗に両頬を掴まれ、無理矢理視線を戻された。

 さっきより頬が膨らんでいる。


「私と話してるのに、村雲さんを見てた……!」

「たまたま目が合っただけだぞ……?」

「嘘だ、私と付き合ってるのに、浮気しようとしてるんだ……!」


 どうしてそうなる。

 さては、女子の中にいらないことを吹き込んだ奴がいるな?


「美麗がいるのに、そんなことするわけないだろ?」

「ふ~んだ。私には恋愛教えてくれないくせに」


 そもそも、恋愛がわからないのに付き合っているという状況が、異常なのだが。


 たくっ……何をムキになってるんだよ。


「恋愛なんて、誰かから教わるものじゃないぞ? それに、俺じゃないほうがいいだろ?」

「翔ならいいって、私は付き合う前に言った」


 確かに、屋上でそんなことを言われた気がするが……。


「翔は……私のこと、好きじゃないの……?」


 俺が拒否し続けたせいか、美麗はシュンとした表情になった。


「なんで、そうなるんだよ……?」

「だって、嫌がるし……」

「…………」


 実際、どうなのだろう?

 美麗のことは、性格も容姿もかわいいと思っている。


 だけど、恋愛という意味で好きかっていうと――そうじゃない気がした。


 わからない、近すぎてそう思ってしまうのだろうか?

 美麗は誰もが振り返るレベルの美少女で、天真爛漫な性格はとても魅力的だ。

 それこそ、そこら辺にいる男子たちが惚れるレベルなのだから。


 それなのに惚れてないと思うのは、俺たちの距離が近すぎるせいなのか? 


 ――とはいえ、佳織に感じていたレベルのドキドキを、美麗に抱かないのは間違いない。


「俺はただ、美麗に後悔してほしくないと思ってるだけだよ」

「そうやって私のせいにするの、ずるいと思う……!」

「せいにしてないだろ……?」

「じゃあ、私が絶対後悔しないって言ったら、翔はちゃんと恋人のようなことしてくれるの……!?」


 美麗の疑問は凄く真っ当だと思った。


「そうだな……」


 俺は目を瞑り、よく考えることにする。


 本来なら、美麗が言ったところで俺は断る。

 しかしそれは――美麗が言ってるように、美麗のせいにして逃げたと認めるようなものだ。


 美麗が教えてほしいというなら、そうしたほうがいいのか?

 それに、俺もそろそろ前を向かないといけない。


「…………」


 うん、それなら――。


「じゃあ、二人でいろいろと試してみよう。そうして、見つけていけばいいんじゃないか?」


 美麗は恋愛がどういうのかというのを――。

 そして俺は、前を向く方法を――二人で見つけられたらいいな、と思うのだった。

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