第27話「村雲唯今の正体」

「なんで……お前が佳織の名前を知っているんだ……?」


 今まで、村雲に佳織の話をしたことはない。

 もちろん、俺は佳織と小学生の時から同じ学校だったが、村雲とは違った。


 それなのにどうして、こいつが佳織の名前を知っているんだ……?


「動揺しすぎだよ、君らしくない」


 村雲は失笑しながら、悲しそうに俺の顔を見つめてくる。


「……佳織のことを知っているなら、あいつがどうなったかも知ってるんじゃないのか?」

「知ってるよ、痛いほどにね」

「だったら……!」


 俺は思わず語気が荒くなってしまう。


「だったら、あいつと関わってきた奴に名前を出すことがどういうことかくらい、お前ならわかるだろ……!?」

「少なくとも、そこまで動揺するのは君くらいじゃないのかい?」


 村雲はゆっくりと俺に近付いてくる。

 そして、俺の頬に手を添えてきた。


「結局、君は佳織の死に縛られたままじゃないか。これでよく、有栖川嬢の彼氏役になったね?」

「――っ!」


 俺は村雲の手を振り払う。

 いったい何を考えているのかわからない。


 ただただ、村雲に酷い怒りを覚えた。


「おぉ、怖い。まるで人を殺しそうな目じゃないか」

「茶化すのも、大概にしろよ……?」

「僕は本気さ。本気で、君がどう思っているのかを知りたかった」


 確かに、村雲の目はいつもの茶化している目ではない。

 口元が笑っていようと、目だけは真剣だった。


 しかし、それなら尚更こんなことをする理由がわからない。


「佳織が死んでから二年だね。君はずっと、彼女の死を引きずっているわけか」

「黙れ」

「まぁ、仕方がないか。君たち、恋人だったもんね?」

「――っ」


 俺は怒りに任せて、村雲の胸倉を掴む。

 女だろうと関係ない。

 人には、踏み込んではいけない領域があるのだ。

 それをこいつはおかした。


「お前、何が言いたいんだよ?」

「言わなくてもわかるんじゃない? いつまで、終わった恋を引きずる気なの?」

「お前に関係あるのか?」


 俺は至近距離から村雲の目を見据える。

 どういうつもりで言っているのか知らないが、これ以上喧嘩を売ってくるなら許さない。


「冷静さを欠きすぎだね。その発言で、有栖川嬢との仲は、嘘だと認めているようなものじゃないか」


 村雲は呆れたように溜息を吐く。

 明らかに俺を挑発しているのがわかった。


「だから、それが何かお前に関係するのか?」


「そうだねぇ、いつまでも君が終わった恋を引きずっているのは困るかな? そういう意味では、有栖川嬢と本気で恋愛をしているなら問題はなかった。だけど、君たちは違うでしょ?」


「そんなの、お前の勝手な決めつけじゃないのか?」

「さぁ、どうだろうね? でも確か、有栖川嬢とよく似た従妹が君にはいたはずだ」


 そんなことはないはずなのに、村雲の瞳が一瞬ギラリと光ったように見えた。

 もしかしたら、月の光が変なふうに反射したのかもしれない。


「つまりあの子は、君の従妹なんじゃないのかい? だからこそ、他人に興味を示さない君が、あの子のためには動いてる」


 俺に従妹がいることを知っていたのは、親戚を除けば佳織だけだ。

 だけど佳織は、口が軽い奴ではない。


 おしとやかな清楚系で、誰にでも優しい女の子。

 そして他人の秘密は守るのが、佳織だった。


 別に美麗のことを秘密にしてほしいと言ったことはないが、わざわざ自分から話すとは思えない。

 少なくとも、親しくもない奴に話すなどありえないだろう。


 となれば、村雲は佳織にとって近しい存在だったことになる。

 しかし、俺が村雲と知り合ったのは高校に入ってからだ。


 佳織は塾や習いごと、部活をしていなかったため、学区外の生徒と親しくなるどころか、知り合うことがほとんどない。


 だから、可能性として一番考えられるのは――。


「親戚――お前、佳織の従姉妹なのか?」



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【あとがき】


読んで頂き、ありがとうございます(*´▽`*)


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これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪

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