第7話「素直になれないお年頃」

「……♪」


 帰って来てからチョコケーキを食べている愛は、幸せそうに頬を緩めている。

 甘いものが大好きなので、ケーキを買ってあげると機嫌は直るのだ。


「ふふ、翔の奢り♪」


 美麗も嬉しそうにモンブランを食べている。

 同じく幸せそうに食べていて、見ていて気持ちがいい。

 そんな中俺は、チーズケーキを食べていた。

 甘すぎず、ちょうどいい味付けなのだ。


「そういえばさ~、来週行く林間学校の班決め、明日だよね?」


 ケーキを食べている中、美麗が小首を傾げながら聞いてきた。

 班決めとは、一緒にカレーを作ったり、山の中を回ったりする班を決めるのだ。


「そうだけど、急にどうした?」

「翔と一緒の班になりたいなぁって」


 それはつまり、一緒の班にしてよってことだろう。

 担任の先生によると、決め方は男女合意のもと同じ三人ずつになればいいってことなので、お互いが同意していればなれる。

 ただ――。


「他の女子が嫌がらないか……?」


 自分で言うのもなんだが、俺は女子たちからあまり好かれていないと思う。

 暗いし、優しくないし、素っ気ないから。

 そんな男子が一緒になることを、美麗を取り巻く女子たちが許すとは思えない。

 なんせ美麗の周りは、陽キャばかりなのだから。


「翔を雑に扱う子はいらないから、いいよ。翔と一緒になって、後は問題ないって子と組むから」

「う~ん?」


 まぁ、美麗は人をり好みしないところがあるから、言わんとすることはわかるけど……。

 周りが、放っておかないと思う。


 今の取り巻きたちだって、美麗が自分から仲良くしているのではなく、友好的に接してきてるから、美麗も友好的に返しているだけだ。

 ここで美麗が一緒の班にならないってなると、クラスで揉めるんじゃないか……?

 普通に美麗の取り合いが始まる気がする。


「兄さんたちは表向き恋人になるのですから、美麗姉さんの主張は至極当然なものになるかと」


 俺が悩んでいると、素っ気ない口調で愛が口を挟んできた。

 おかしいな、まだ怒っているのだろうか?


「だよね~! 今の私にとっては、翔が一番のはず!」


 ウンウンと頷きながら、愛の様子にいっさい疑問を持たない美麗。

 こういう素直というか、無邪気なところは羨ましい。


「まぁ俺も、他の女子と一緒になるより美麗のほうがいいが……」


 女子は美麗が割り切っている以上、うまくまとめあげてしまうかもしれない。

 だけど、男子の反応が読めないな……。

 おそらく俺が彼氏になったからといって、男子の中にはまだ美麗を狙う層がいるだろう。

 そんな諦めの悪い奴らは、こういうイベントで奪えると考えなくもない。


 そういう連中を躱しながら、メンバーを決める必要があるが――生憎、俺が仲いい男子は一人しかいないので、後一人は慎重に選ばないといけなくなる。


「とりあえず、美麗と一緒の班になることはいいよ」

「ほんと!?」

「あぁ。後のメンバーに関しては、クラスの反応を見ながら決めよう」


 揉めはするだろうが、どっちみち俺がいなくても男子の中で、誰が美麗と一緒になるかは揉めるだろう。

 そして山の中などでは、変な気を起こさないとも限らない。

 俺が同じ班になることが、一番美麗を守れそうだ。


「兄さんって、美麗姉さんに凄く甘いですよね?」

「多分、愛に対してのほうが甘いと思うけど?」

「うん、愛ちゃんのほうが甘やかされてると思う」


 なんだか愛がいじけていたので、思ったことを伝えると、美麗も話に乗ってきた。

 多分周りから見ても、俺が一番優しくしているのは愛だ。


「まぁ、それはそうかもしれませんが……」


 愛は照れたのか、ほんのり顔を赤くしながら目を逸らす。

 納得したのならそれでいい。


「……愛ちゃんってさ、ツンデレが入ってるよね?」


 愛の態度を見ていて思うところがあったのだろう。

 美麗が、コソッと耳打ちをしてきた。


「それはさすがに違うと思うが……まぁ、素直になれないお年頃なんだろ」


 愛だってもう中学三年生だ。

 幼かった頃の甘えん坊ではいられない。

 俺としては、昔の甘えん坊のほうがよかったのだけど。


「ふ~ん、そっか」


 美麗は単に気になっただけで深くは興味ないのか、頭をブラブラと左右に振りながら離れる。

 もうどうでも良さそうだ。


「とりあえず、翔と一緒の班は決定だね?」

「そうだな、後はどうするかだが……」


 まぁ事前に、あいつ・・・にも連絡を入れておくか……。


「翔を蔑ろにしない子と組むもん。あっ、ほら、あの子とかどう?」


 スマホを取り出していると、美麗が笑顔で詰め寄ってくる。

 あの子とは、どの子だろう?


「誰だ?」

「黒髪のボブに、インナー紫が入った女の子! ほら、僕っ娘で、翔と結構話をする気さくな子……!」

「いや、そこまで特徴を言うんだったら、名前を呼んだらいいじゃないか……。村雲むらくものことだろ?」


 村雲むらくも唯今ゆい――俺たちと同じクラスなのだけど、何を考えているかわかりづらく、掴めない性格をしている女の子だ。

 しかし、容姿の良さもあって、クラスでは美麗の次に人気がある。

 女子の中には、村雲にガチ恋をしている人間が何人かいるとさえ聞く。


 それくらい人気な子だけど、なぜか俺と一緒にいることが多い。

 多分、グイグイくる連中が多いから、俺みたいな周りに興味がない人間といたほうが、楽なのだろう。


「村雲と美麗が同じ班とか、あと一つを巡って女子たちが戦いを始めないか……?」


 正直想像をするだけで怖いんだが。

 まぁそれは、男子でも同じか。

 俺としては、村雲は気さくな男友達みたいな感覚があるが、意外と男子にもモテるからな、あいつは……。


「もしそうなったら、残りはくじで決めるとか?」

「どうだろうなぁ」


 話し合いで決まらなければ、くじをするしかないだろうが……。

 どうあれ、実際に決める時にならないとわからないな、と思う俺だった。



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