第18話「学校のアイドルが番犬みたいなんだが」

 これから山の中を歩くと言われ、着替えを終えた俺は一人山を眺めていた。

 小学校、中学校の時も来たということは、それだけ思い出もある。

 今はいないあいつ・・・も、中一の時に林間学校へ来た時は、まだ隣で笑っていたんだよな……。


「何ボーッとしてるの?」

「なんだ、裏切り者?」

「うぐっ、さっきは悪かったって……」


 笑顔で話しかけてきた和輝に塩対応をすると、ダメージを与えることができたようだ。

 友人を裏切ったのだから、これくらいの報いは受けるべきだろう。


「か~ける!」

「うぐっ……!」


 そうしていると、後ろから元気よく抱き着かれてしまった。

 というか、もはや突進だろ、これは……!


「み、美麗、なんだよ、急に……!?」

「あはは、ごめんごめん。勢い余っちゃった」


 美麗は『てへっ』とかわいらしくおどける。

 どうやらテンションが上がっているようだ。

 これから山でアスレチックみたいなことをするので、そのせいかもしれない。


「いきなり抱き着くのはやめようか?」

「え~、なんで?」


 注意すると、不満そうに頬を膨らませた。

 相変わらず、子供っぽいところがある。


「びっくりするからだよ」

「ぶぅ、翔のケチ……!」

「拗ねるなよ……」


 プイッとソッポを向いた美麗に対し、俺は頭が痛くなる。

 しかし、腕はギュッと俺を抱きしめており、離れる気はないようだ。


 ……うん、暑いんだが……?


「君たちって、周りの目を気にせずいちゃつくよね?」

「村雲……これをいちゃつきと捉える、お前の目がおかしい」


 楽しそうに近付いてきた村雲に対し、俺は白い目を向ける。

 というか、村雲の周りを女子たちが囲んでいるのだけど、その女子たちを引き連れて近付いてくるのはやめてほしい。


「どこからどう見ても、いちゃつきでしょ? ねっ、君たち?」

「うんうん、美麗ちゃんかわいい」

「神楽坂君にべったりだもんね~。どこがいいのかわからないけど」


 うん、最後の一言って必要だったか?

 いらなかっただろ?


「…………」


 しかし、そんな俺を馬鹿にするような発言にいち早く反応したのは、美麗だった。

 不機嫌そうな表情で、物言いたげにギャルのことを見つめている。


「ひっ……!?」

「ば、ばか……! 美麗ちゃんの前で、神楽坂君の悪口は厳禁でしょ……!」

「ご、ごめん、美麗ちゃん……! 私たち、もう行くね……!」

「あっ、待ってよ……!」


 ギャルたちは、美麗から逃げるようにして離れていった。

 まるで番犬だな、これは。


「う~ん?」

「村雲は村雲で、何を難しそうな顔で考えているんだ?」


 村雲が顎に手を当てて首を傾げていたので、俺は尋ねてみる。


「なんだか、よくわからなくなってきたな~って」

「何がだよ?」

「いや、こっちの話だよ。それよりも、そろそろみんな着替え終わっただろうし、集合するんじゃないかな?」


 村雲は誤魔化すように話を変えた。

 だけど、彼女の言う通り、すぐに担任から整列の言葉がかかる。


「さぁ、初めての班行動だ。楽しみだね?」

「……変なことはするなよ?」

「心外だな、僕が変なことをしたことが、一度でもあったかい?」


 確かに、村雲が変なことをした記憶は……ない。

 言動がおかしいというか、怪しいだけで、意外と常識人だからな、こいつも。


「それで、美麗はいつまでくっついてるんだ?」


 俺は、未だにくっついて離れない美麗に視線を向ける。


「このまま、山に登るのもありかと?」

「駄目に決まってるだろ……。危ないじゃないか」

「むぅ……」


 頬を膨らませながらギュッとしがみついてくる美麗を、俺は優しく離すのだった。

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