第19話「自由人と天真爛漫な子」

「――じゃあ、こう回ったほうが効率よくポイントを稼げそうだね?」

「あぁ、そうだな」


 現在は、ポイントが記載された地図を見ながら、俺と村雲を中心にどう回るかを決めている。

 制限時間内に、山の中にあるポイントが記載された印鑑を押していき、一番ポイントを稼げたチームが勝ちとのこと。

 もちろん、学校の行事なので、1位になったところで特典などはない。


 それでも俺と村雲が真剣に話し合った理由は――。


「絶対、1位とろうね……!」


 美麗が、1位を取りたがっているからだ。


 それから俺たちの番になり、五人で入っていく。


「へぇ、結構歩きやすい道になってるんだね?」

「そっか、美麗はここ来るの初めてなんだな?」

「うんうん」


 美麗は東京に住んでいたので、小学校や中学校の林間学校で、ここには来ていない。

 だから余計にテンションが高いのだろう。


「東京出身だっけ? 羨ましいなぁ」

「村雲さんは、東京に憧れてるの?」

「田舎に住む子供だと、やっぱり東京に行ってみたい子は多いんじゃないかな?」

「そうなんだ~。村雲さんだと、街中歩いてたらスカウトされそう」


 確かに、村雲は美麗に負けず劣らずの美少女だ。

 しかし、口調が口調だし――いや、意外と需要はあるのか?

 クラスの女子たちを、虜にしているくらいだし……。


「そういう有栖川嬢こそ、スカウトされてたんじゃないのかい?」

「ん~、まぁ何度かスカウトされたことはあるんだけど、お父さんがそういうの駄目って人だったからね」


 スカウトされていたのか。

 それは初耳だ。


 叔父さんは美麗を溺愛しているし、危険のあるアイドルなどにはさせたくないだろうな。

 いくら気を付けていたって、一般の人より芸能人はリスクがある。

 ましてや、美麗ほどかわいければ、心配になるのも仕方がなかった。


「アイドルに興味はないのかい?」

「キラキラしてていいなぁって思うけど、私はあわないと思う」

「そうかな? ピッタシだと思うけど?」


 俺も村雲に同感だ。

 既に『学校のアイドル』とまで言われるほどに、美麗は周りを惹きつけている。

 ましてや、対応も凄くいいし、アイドルになったら神対応とか言われるんじゃないだろうか?

 歌や踊りに関しても、今は知らないけれど、幼い頃は上手だったし。


「私、結構自由人なんだよ? スケジュールで縛られるのって、無理だと思う」

「あぁ、なるほどな」


 あまりにも納得がいったので、俺はつい声に出してしまった。

 それにより、不満そうに美麗が見上げてくる。


「なんだろ……納得されると、それはそれで複雑なんだけど?」

「いや、美麗が自由人ってのは、その通りだなって」


 家でも自由にしてるし、相変わらず部屋に入ってくる時はノックしないし。

 その上、いつも俺の部屋にいるしな。


「自由だからこそ、みんなを惹きつけるんじゃないかな? ほら、天真爛漫てんしんらんまんな子ってかわいいじゃないか」

「わ~、村雲さんっていいこと言うね! 翔にも見習ってほしいよ!」


 美麗はニコニコ笑顔を村雲に向ける。

 なんだかんだ、この二人も仲がいいようだ。


「…………」


 そんな中、花巻さんが仲間に入りたそうに美麗を見ていた。

 彼女も会話に入りたいのだろう。

 和輝に関しては――うん、なるべく目立たないように息をひそめているな。

 おかしい、こんな奴じゃなかったはずだが……?


「花巻さん、歩くペースは大丈夫か?」

「ふぇっ!? だ、だいじょうぶ……!」


 突然話しかけてしまったせいだろう。

 花巻さんは驚いて、慌てたようにブンブンと首を縦に振った。


 あれ、俺って怖がられているのか?


「しんどかったら、言ってくれたらいいからね?」

「美麗ちゃん……ありがとう……」


 どうやら、花巻さんのことは美麗に任せておいたほうがよさそうだ。

 女の子同士だし、そちらのほうがうまくいくだろう。


 俺たちはそのまま、ポイントを集めていき――結果的には、1位で終わるのだった。

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