第22話 お風呂
カーバンクル探しをするのに、魔法を使うことにした。
といってもヘルプが告げてくるようなゴリゴリの討伐用じゃなくて、大きな音と光でびっくりさせる方法だ。
屋敷全体に結界を張って、中も小さく区切る。壁を作っていくイメージだ。
ヘルプの助けを借りてカスタムした複合魔法。
名づけるならば、
「スタンフラッシュ」
耳を刺すような甲高い音と、視界が真っ白になるほどの閃光が部屋の中を満たす。
これを各部屋でやっていけばおそらくカーバンクルもびっくりして動いたり逃げようとしたりするはずだ。
結界で音も遮断されるので、バレて身構えられたりはしてないはず。
何秒か待って動きがなければ次の部屋だ。
動かないで耳を澄ませてれば良いだけなので楽チンである。
「さすがお嬢様ですね」
ッパァァァァァァァァァァンッッッッ!!!!!!
あ。
なんか力入れすぎちゃった。
念のために魔大剣を構えてたノノがほめてくれたからやる気出しただけなんだけど、普通のスタンフラッシュの一〇倍くらいの音と光が出ちゃった。
——ドタ。
あ、なんか倒れた音がした。
急いでその部屋に向かうと、エメラルドグリーンの体毛をした獣が部屋の片隅で伸びていた。目を回しているらしくて動きがないので、ノノがちゃちゃっと縛ってくれた。
ちなみにサイズは幻術で大きく見せてるだけで、本当は手乗りサイズでした。そりゃ見つからないよね。
「これがカーバンクル? 可愛い」
「ですね。額のコレは宝石でしょうか」
緑の体毛を持ったリス、というのが一番しっくりくるだろうか。
額には宝石みたいにきらめく真っ赤な石がついてるし、耳はピンと尖ってるので細かいところは全然違うけどね。
「きゅう……」
「縛ってあるし回復してあげよう」
「きゅ……? きゅう!? きゅきゅきゅっ! きゅ~!」
元気になったカーバンクルは自分が縛られたことに気づいて大暴れ。その後、私とノノに気づいて目を潤ませていた。
もしかしたら殺されちゃうって思ってるのかも。
「大丈夫だよ、森に帰してあげ——……ノノ?」
私が手を伸ばしたところで、ノノが大剣の切っ先をカーバンクルの額に当てていた。
「恐れ多くもお嬢様が撫でてくれようとしているのです。万が一暴れたりお嬢様に噛みついたりしたら……わかりますね?」
「ノノ? 話しても分からないって」
「きゅっ! きゅっきゅ!」
なんかすごい勢いでうなずいてるけど、もしかして言葉を理解してる?
まさかね。
とりあえず撫でてあげたら、きゅきゅ、と気持ちよさげに目を細めてくれた。
「可愛い……ねぇノノ、この子、飼っちゃダメかな?」
「きっと喜びますよ。……ねぇ?」
「きゅ、きゅうっ! きゅうっ!」
ノノの問いかけに、カーバンクルが全力で首を縦に振っていた。会話ができてそうに感じてしまうけれど、きっとそういう癖なんだろうね。
「ではお嬢様は名前を決めていただけますか?
ノノがカーバンクルを摘まんで物陰に連れていく。
どういう躾なのか興味あるけど、私は名前を考えてあげないと。
「みどり……あか……うーん。りす……みみ……」
色や形からイメージしようと思ったけれど、思ったより難しい。やっぱり額の宝石からルビーとかにするのが良いかなぁ。
しばらく悩んでいると、ノノが躾を終えたらしく戻ってきた。
縄も解いてあるし捕まえているわけでもないのに、てくてく歩いてきた。柔らかそうな尻尾が歩くたびに揺れるのがなんとも可愛い。
「終わりました」
「早かったね。どうやって躾けたの?」
「万が一逃げたりいたずらをしてお嬢様の真心を裏切るようなことがあればどうなるかを説明しました」
「あはは。頭いい子だね」
冗談なんだろうけど、秘密にしときたいならそれでいいかな。
「ちなみにお名前は決まりましたか?」
「うーん。額の宝石がキレイだからルビーって名前はどうかなって」
「素敵な名前ですね」
「きゅっ!」
ルビーも気に入ってくれたみたいだ。
依頼は達成できたし新しい家族もできたので大満足だ。
「お風呂、お風呂♪」
ルビーを捕まえた私たちは宿屋に戻ってきた。今までお風呂なんて入ってなかったであろうルビーを洗うついでに私たちも入ってしまうことにしたのだ。
「では、お願いします」
「うん!
水魔法と火魔法でお湯をつくり、そこに土魔法で温泉成分を追加!
白く濁ったお湯がバスタブの中に現れる。湯気と一緒にほわっと火山っぽい匂いが漂う。
うーん、結構匂いが強いけどこれ本当に大丈夫なのかな?
『解説:白濁系の温泉は硫黄化合物や粘土質が含まれていることに起因します。皮膚病へのアプローチとしても有効ですし美肌効果も望めます』
おお! なんか良さそう!
「入ろ、入ろ!」
「お嬢様、落ち着いてください。さ、お召し物を」
ノノに手伝ってもらいながらワンピースドレスを脱いでいく。
あっという間に何も身に着けていない状態になったので、ルビーを抱っこしてバスタブ横に座る。
ノノもささっと脱いで、お風呂開始だ。
お湯はいくらでも作れることもあって、桶で汲んで体にかけたり頭を洗ったりし始める。
ちなみに頭や体を洗う石鹸は錬金術ギルドで買った。
あの早口の錬金術師さん、実は凄腕の錬金術師だったらしくて香り付きの石鹸を売っていたのだ!
ばらや百合なんかの花の香りがついたものや、フルーツの香りがついたものもあって、匂いを嗅ぐだけでもすごく楽しかった。
「お嬢様にはこれです」
とのことでノノが百合の香りを選んでくれたので、お返しに私もノノの分を選んだ。
「ジャスミン、ですか」
「うん。爽やかだけど甘味もあって、なんかすっごく良い香りだったから!」
「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」
さっそく洗いっこをするんだけど、まずはいつも通りノノが私の髪の毛とか背中とかを洗ってくれる。
ずーっと冷たい水で洗うだけだったから気づかなかったけれど、私は肌が弱いらしくて石鹸を泡立てた手で優しく洗ってくれる。
「んっ……あふぅ……きもちぃ……」
「それは良うございました。ご飯もきちんと食べられてますし、少しずつ健康的になってきましたね」
「うん! お胸もちょっとおっきくなった気がする! ほら!」
ざばっとお湯を被ってから向き直ったらノノが硬直してた。
「っ!? そそそ、そうですね? ぜ、全身全霊で確認しましたにょ?」
……にょ?
またノノが鼻血を出してたけど、お風呂に垂れちゃうと困るので即座に回復魔法。つ、と垂れた体を洗ってあげることにする。
私は手がちっちゃいしよく洗えるようにふかふかのタオルを使っている。
「すみません……」
「良いの。私がやりたくてやってるんだから」
「ありがとうございます」
ノノが落ち着いたところで最後はルビーだ。部屋の端っこで大人しくしてたのを膝の上に抱えて座り、こしこしと石鹸で洗っていく。
ちなみにルビーの分は柑橘系の爽やかな香り。
最後にしっかり流してあげたら、全員で湯船に沈む。ルビーが溺れないか心配だったけどお腹と頭を天井に向けて器用に浮いてたからきっと大丈夫だろう。
一人には広めなんだけど、さすがに私とノノ、そしてルビーが一挙に入るとやや狭い。
ノノに抱っこされるように座り込んで背中を預けると、そのまま溶けちゃうんじゃないかってくらい気持ちが良かった。
実際、何度か寝落ちしたことがあるんだけど、寝てる私を拭いて髪の毛乾かして着替えさせたりするのはさすがにノノが大変すぎるので気を付けなければならない。
「あー……」
水魔法や風魔法で乾かしておしまい。
お風呂でさっぱりした後は、ご飯だ!
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