第13話 さらに美味しいご飯

 翌日。

 豚汁と厚焼き玉子が大好評過ぎて、ロンドさんのお願いで新しい料理の開発をお願いされることになった。

 新しい、というかナノマシンの中に蓄積されてた料理をノノが神がかり的な腕前で再現してくれる感じなんだけれど。

 豚汁は魔物のお肉や味噌が貴重過ぎて再現が難しいらしく、簡単に再現できるもので、と注文までつけられてしまった。


「調味料などは如何ですか?」

「汎用性が高いものならばぜひお願いしたいです」

「では、お嬢様がお喜びになるものを」


 豚汁も厚焼き玉子もすっごく美味しかったけど、これから食べるのも楽しみだなぁ。

 何を作るかわくわくしながら見つめていると、


「さて、それでは始めます」


 取り出したのは金属製のボウルと泡だて器だ。

 ボウルの中に卵、酢、塩を入れ、オリーブオイルの入った瓶を横に添えてロンドさんに差し出す。


「全体がもったりするまでよく混ぜてください。その後、オリーブオイルを少しずつ加えながらさらに混ぜていってください」

「僕がですが!?」

「? 他に誰が?」


 当たり前のように指示を出し、ノノはキッチンで作業を始める。

 私もロンドさんのお手伝いを……あれ? ダメ?

 なぜかノノに阻止されてしまったので、おとなしくカウンターに座ってノノの雄姿を眺めることにする。

 料理をてきぱき作るノノってすごいよねぇ。


「何かできることない?」

「ありがとうございます! お嬢様にはぜひ私の応援をお願いします!」

「分かってましたけど落差すごくないです……?」


 ロンドさんはボヤきながらもボウルの中身をかき混ぜ始める。

 うーん、手伝いたい気もするけど、止められちゃったしなぁ。それに多分私は五分くらいでへばる気がする。


「後でお嬢様にもお願いすることがございますので、少々お待ち下さい」

「うん!」


 ノノは湖畔で獲ったレイククロマグロをザバザバ切り分けていく。

 私よりも大きな魚型の魔物から皮を削ぎ、骨を落として綺麗な赤の身だけにしていく姿は圧巻だ。

 四角く切り分けた赤身に塩を擦り込み、鍋の中に入れると、大量のオリーブオイルをとぷとぷと注いでフレッシュハーブを放り込んだ。

 赤身が見えなくなるくらいにハーブが入ったところで弱火に掛ければ、ふわっと良い香りが漂い始めた。


「このままオイル煮コンフィにします」


 その間に玉ねぎをスライスしたり、レタスを洗って千切ったりしてザルにいれておく。


「これ、まだ混ぜます?」

「そろそろ良いですね。お嬢様、申し訳ありませんが、けがの汚れを取る魔法をお願いできますか?」

「うん。——浄化!」


 別に言葉にする必要はないんだけど、ノノとロンドさんに伝わりやすいように声に出す。

 魔力の光がパァッとボウルを包んで、中に入っていた白いドロドロを浄化した。けがだったらこれで化膿したり変な病気になることはなくなる。


「あとは生地ですね」


 小麦粉を牛乳と卵で溶いて、熱したフライパンに薄く伸ばしていく。

 とろっとした水分多めの感じから、ぺらぺらのパンケーキみたいに固まったところでひっくり返し、まな板の上に広げる。

 うすーい生地がホカホカと湯気を立てていた。


 オイル煮にしたマグロを取り出してほぐし、白いドロドロと玉ねぎを混ぜ合わせる。

 レタスと一緒にそれをくるくる巻いて完成らしい。


「どうぞ。マグロと玉ねぎのマヨネーズ和え——ツナマヨでつくったクレープです。パンや麺を仕込むには時間が足りず、なかなか思うような料理が作れませんが。お米があれば一気に幅が広がるんですがね」

「すっごく美味しそう! お米はあとで調べてみるね!」


 ヘルプに聞けば分かるだろうし、ノノがわざわざ欲しいって言うならきっと美味しいに違いない。特にやりたいこととか予定があるわけじゃないし、落ち着いたらお米探しの旅に出るのも悪くない。


 レタスもツナマヨも出来上がっているので、生地と呼ばれる薄い皮さえ焼けば二つ目以降はささっと出来上がる。

 あっという間に三人分作っていざご飯だ。


「んー! もちもち!」

「このコクと酸味……これがマヨネーズというものですか」

「はい。本来は瓶詰にして数日保存することで殺菌されるのですが、今回はお嬢様の浄化で時間短縮しました」


 生地の黄色にレタスの緑、そしてツナマヨの白が綺麗。

 薄いのにもちっとした生地を噛むと、玉ねぎのシャキシャキした歯ざわりとマヨネーズの爽やかな酸味が口に広がる。レイククロマグロは前に食べた時はあっさり系だと思っていたんだけれど、マヨネーズのコクですごくどっしりした味わいになっていた。

 オイル煮に使ったハーブの香りも爽やかですごく美味しい。


「それではお茶を淹れますね。もう一つ召し上がりますか?」

「んー……食べたいけど入らない……」

「気に入っていただけたならば今度、別の味もお作りしますよ」


 その言葉に反応したのは私ではなくロンドさんだ。


「別の味もあるのですか?」

「ええ。生地に包むものを変えればバリエーションはかなりたくさんありますし、生地そのものにはちみつや砂糖を混ぜ、フルーツやクリームを包めばデザートにもなります」

「……売ってください」

「いえ、お嬢様がお召し上がりにならないのに追加をつくるのは——」

「レシピです! このマヨネーズも! クレープも! 売っていただきたいです!」


 マヨネーズとクレープのレシピを売る。

 形のないものでも商品になるらしく、ロンドさんは大興奮だった。わざわざノノに新料理の開発をお願いしたのはそのためだったみたい。


 クレープは真似されやすいことを考慮してレシピの買い切り、マヨネーズは簡単には真似できないと踏んで売上の五%を継続的に貰うことで決着がついた。


「ふふふ……うまく当たれば七席、いや六席すら見えてきますよ……!」


 マヨネーズに将来性を感じたらしいけれど、ちょっと怖い笑みを浮かべながら書類を書きまくる姿は狂気そのものだった。

 クレープのレシピもかなりのお値段だったけれど、マヨネーズの手付金が本当にすごかった。ノノは迷わず空間魔法が付与された腕輪とミスリルのインゴットに全額使っていたけれど。

 私の空間魔法と違って容量に制限があるものの、自前の異空間が欲しかったらしい。


「調味料や器具の出し入れをするたびに毎回お嬢様に負担をお掛けするのは申し訳ないので」

「そのくらい別に良いのに」

「でしたら、お願いしたいものが」


 滅多にないノノからのお願いだ。

 張り切っちゃうよー!

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