第28話 ケーキ
ノノがスポンジ、というケーキの中身を焼いてくれたので、私が魔法でクリームを作っていく。
「もっとです、もっとお願いします」
「それぇー!」
ノノに言われて、あったかい牛乳入りの容器を風魔法でぶんぶん回す。
太い綱で杭に結ばれた容器はぐるんぐるん回って、容器の周りにもたっとした白いのがいっぱいできた。
「これを泡立てていきます」
「おお」
ノノの手がブレて見えるほどの速度で動き、白いもたもたがふんわりになった。混ぜてるだけなのにドロドロ系だったのが硬くなっていくのがすごく不思議。
砂糖を加えてさらに混ぜ、持ち上げた時にチョンと角が立ったままになってきたら完成だ。
「生クリーム、と言います。カットしたフルーツと一緒にスポンジに飾り付けていきましょう」
ノノがスススーっとスポンジの上に生クリームを伸ばしてくれたので、私はフルーツを盛り付ける係だ。
ロンドさんから買ったいろんな種類のフルーツを見栄えが良くなるように並べていく。
同じように一回り小さいのも作って、二段重ねにする。
「これ以上は難しいので、ちょっと小さめですけれど」
「ううん! すっごく素敵!」
これだったら絶対に喜んでくれるはずだ。
ハンバーグも良い感じに焼けたので、二人を呼んで豪華なご飯だ。
***
「わぁ! すごい!」
「おお! 豪華だ!」
主役の二人を座らせて、今日は私とノノで配膳係だ。ウェディングケーキをテーブルの中央に飾って、大きなハンバーグに醤油のソースを掛けたものを出す。
「良い匂いだなぁ……よだれが止まらん」
「ほんと、香ばしくて良い匂い」
「私も手伝ったんだよ! 美味しくなるように頑張って作ったの! 食べてー!」
「はぅっ」
「ぐはっ」
「くっ!?」
ドルツさんとフェミナさんは胸を押さえてうずくまっちゃった。助けを求めようとしたけれどノノも鼻血を抑えながら俯いている。
「えっと……食べない……の?」
「た、食べる! すぐ食べる!」
「うん、美味しそう! いただきます!」
「……私はお嬢様で胸がいっぱいなのでお気になさらず」
なぜかノノは深呼吸してたけれど、気にしないでほしいとのことなので皆でいただきますだ。
「うわ、切ったところから肉汁がっ!?」
「すごい……!」
ナイフを入れると断面からきらきらした肉汁が溢れてる。洪水みたいに出てきちゃうので急いで口に運ぶ。
噛み締めるまでもなく、玉ねぎの優しい甘味とお肉のガツンとした旨味が口の中で暴れまわった。びっくりしながら噛み締めればさらに濃い味のハンバーグがほろりと崩れ、香ばしさとコクのあるソースが味をぎゅっとまとめてくれた。
美味しすぎて言葉が出てこない……!
目を白黒させながらもドルツさんたちをみれば、もうすでに食べ終えていた。お皿を千切ったパンで拭って食べながらうっとりしていた。
私のより三倍くらい大きいハンバーグだったのに、もう食べ終わったの!?
「……美味しかったわ」
「ああ……マリィのお陰だな……決めた。最初は娘が良い」
「そうね……マリィちゃんみたいな天使を育てましょ……」
「マリィにあやかって、マリン、とかどうだ?」
「素敵。きっとかわいい子になるわ!」
えっと、これは話しかけない方が良い……んだよね?
前回は話しかけて失敗しちゃったから静かに見守ることにする。
「でも、男の子だったらどうするかな」
「もしかして、男の子はイヤ?」
「嫌じゃない。でも、フェミナの取り合いになっちまうだろ?」
「ん、もう! ドルツったら!」
二人は目に見えて近い距離でイチャイチャしていた。
そのまま見つめあったかと思うとだんだん顔と顔が近づいていき——
「コホン。お嬢様が見ておりますよ?」
「エッ!? ごぶっ?!」
「あっ、きゃあ!」
もう少しで唇同士が触れ合うというところでノノがカットイン。
我に返ったフェミナさんがドルツさんのわき腹をグーで殴って悶絶させていた。
「ご、ごめんなさいね!」
いや、あの、私は良いんだけど、ドルツさん泡噴いてない……?
回復魔法を掛けてあげたら苦笑いしながら復活してた。怒ってなかったのでまぁ良いだろう。
続いてケーキの切り分けだ。
本当は登るのが超古代文明方式らしいんだけどさすがにふわふわのスポンジと生クリームは登りようがないので普通に食べるだけだ。
「何度見てもすごいわねぇ……!」
「美味そうだ! 食べても良いか!?」
「はい、召し上がれ!」
ノノが切ったものを私が配膳する。普段ノノにやってもらってばっかりだけど、美味しいもの食べてもらうのって気分が良いね!
そうそう、美味しいものを食べると思わず笑顔になっちゃうんだよね。
ケーキを頬張ってニッコリしている二人を見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。
「私たちも食べましょう」
「うん」
甘くとろける生クリームと口がきゅっとなるような爽やかさのフルーツがスポンジの上で合体していて、いくらでも食べれちゃいそうだった……!
「あむっ! んぐんぐ、はむっ! おいひ……あぐっ」
いくらでも……いくらでも、は…………無理かも。
こんなにふわふわなのに結構重たい。
「お嬢様。生クリームは脂肪分を多く含んでおりますので無理されますと後で具合が悪くなりますよ」
「うぅっ……! こんなに美味しいのに! こんなに美味しいのにもう入らないかも……!」
「取っておいて後でまた食べましょう?」
「はぁい」
むぅぅぅ! もっと食べたかった……!
私がどれくらい食べられたかはおいといて、ドルツさんとフェミナさんはすっごく喜んでくれたし良かった!
***
「貿易額の低下……?」
「はい。商人や商隊の数が明らかに低下しています」
ブレナバン王国の宮殿。
国王が眉間にしわを寄せながら報告を聞いていた。
「聖王国からの出入りはほとんど変わりませんが、共和国と連合王国からは約一割、グレアランド帝国に至っては三割近く減少しております」
「間諜から、戦争の兆しは?」
「ありません……が」
報告していた大臣は脂汗を垂らしていた。
どう考えても国王の機嫌を大きく損ねるであろう報告だが、口を閉ざしているわけにもいかない。
は、と小さく息を吐いて言葉を紡いだ。
「グレアランドを中心に吟遊詩人たちが妙な詩を吟じておりまして」
「内容は?」
「それが……」
「良いから言え。咎めぬ」
「……王国にて非道な扱いを受けた聖女が、命からがら帝国に渡って大きな都市の危機を救ったと」
「……エクゾディス大樹林から逃げ延びた、ということか……?」
「信じがたいことですが。自らを省みずに傷ついた人々を救った神の御使いだとほめそやす内容でした」
それはつまり、王国の評判が落ちたことを意味していた。
とはいえ、それだけで商人たちの足が目に見えて遠のくとは考えられない。彼らは多くの国を移動して利ザヤを稼ぐのが仕事であり、わざわざ遠回りしたり赴く国を減らせば自身の利益を減らしかねないからだ。
「……どこかの国が、手を引いているとみるべきか?」
「おそらくは。減税などの優遇措置を取って商人の動きをコントロールしているのでしょう」
数字だけを見れば仮想敵国はグレアランド帝国となる。
「……妙だな。グレアランドならばそんな絡め手など使わず、宣戦布告の大義名分にして、すぐさま仕掛けてくるだろう」
「何か別の企みですか。……例えば他国と密約をかわし、攻める時期を合わせるためとか」
「ふむ。可能性が高いのは?」
「ヴァリッグ共和国とラーカーン連合王国。共和国は議会制ですから議員に金を握らせれば大まかな動きは制御できるでしょう。連合王国に至っては小王国の集まりです。個別に調略を仕掛ければもろい一面もあるかと」
「……で、あるか」
国王が頷いたところで大臣の一人が手を挙げた。
「このまま手をこまねいていては真綿で首を絞められるも同じ。こちらから仕掛けましょう!」
「どうやってだ。それこそ他国が攻め入る隙を作るだけだろう?」
「……敵が卑劣な手を使ってくるのならば、こちらも絡め手を使います」
にやり、と笑った大臣の提案は、今後の国を決定づけるものとなった。
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