3-3 国王夫妻にご報告
控室を出たシルヴェスターは、侍従に国王と王妃を王家専用の控えの間に連れてきてくれるよう依頼し、自分もそちらに向かった。
代わりにビンセントとプラティニが大広間に戻る。
先に控えの間で待っていたシルヴェスターは、国王と王妃が控えの間に入りソファに腰かけたところで、今日大広間で起こったこと、控室で起こったことを包み隠さず話した。
王妃は大広間のことでは立ち上がりかねない勢いで怒っていたが、控室での、特に媚薬が塗られていた一件を聞くと真っ青になり頽れるようにソファにもたれかかった。
「そんな……私たちの大切な娘になんてことを……」
「……この機にパウル=ハインツ・フォン・ウェンデルは捕えよう。魔術封じを付けさせて貴族牢行きだ。
併せてウェンデル公爵家の家宅捜索も行う。何としても使われた毒薬と媚薬を発見せよ」
「は。ですが、控室の侍女を精神操作し、毒薬や媚薬を仕込んだ証拠はありません。
クラウディアがパウルの魔術の残滓を感知しているだけです。
大広間の一件だけで、そこまでやれますか?」
「大広間で魔術を使ったことは近衛騎士団副団長のパトリツ・フォン・ヴェークマンが確認しているのだろう?
しかも魔術を向けた相手は王太子に王子が2人、王家の血を引く筆頭公爵家の嫡男を含む4人。
控室の一件がなかったとしても、これだけの王族、準王族に魔術を使用したとなれば立派な謀反だ。
シルヴェスター。どうするかね。私が陣頭指揮をとるか?
軍務を司るシェーンメツラー公爵や司法を司るグローネフェルト公爵もウェンデル公爵家のやりたい放題には相当頭にきているから率先して捜査に当たると思うがな」
「……この一件は私にお任せください。大広間の件はともかくとして、ディアが媚薬を盛られかけたなどと他の者には知られたくありません」
「そうか。ではギルとフォルカー・フォン・リーベルスを上手く使って、絶対に取り逃すなよ」
「かしこまりました。感謝いたします」
シルヴェスターはそう言って頭を下げた。
「ところでシル。ディアを妃に迎える気はあるか?」
「陛下?突然どうなさいました?」
「いい加減お前も身を固めなければなるまい。ディアも成人したことだ。私も王妃もディアをお前の妃にと思っている。
正式に宰相に話を通そうと思うが、どうするね?」
「……私自身、妃に迎えるのはディア以外いないと思っています。ですが、陛下から宰相へ話を通し結婚などと言うのは承諾できません」
「ほう?なぜだね?」
「私は、ディアとは愛し愛される関係になって結婚したいと思っております」
「そうか。それならばお前に任せよう。ただしあまり時間があるとは思うなよ。
ディアの能力を考えれば王家の者以外に嫁がせることはできない。
ビンスもプラティニもいるのだ。私としてはあの子たちがディアを娶るのでも問題ないからな」
「承知しております。ですが、そのような未来はありませんよ。必ず私が妃に迎えます」
「しっかりおやりなさいよ。シル。私は早くあの娘を本当の私の娘にしたいのですからね」
「かしこまりました」
「それから付け加えておくが、ディアを娶るのに失敗した場合、お前には私たちが選んだ娘と結婚してもらう。
そこに拒否権はあると思うな。王太子が政略ではなく恋愛で結婚したいと言うのだ。そのくらいのペナルティがあってもよかろう」
「……はい。肝に命じます」
「とはいえ、まずはウェンデルだ。奴をどうにかしない限りディアも安心できまい」
「は。早速事にあたります」
「では、そろそろ私たちは引き上げさせてもらうよ。
シルは一旦大広間の様子を確認し、頃合いを見計らってビンスたちと引き上げろ」
「承知いたしました」
国王夫妻が立ち上がって私室に戻っていくのを頭を下げて見送ると、シルヴェスターは再びソファに深く沈み込むように腰を下ろした。
1日で色々なことが起こりすぎた。
デビュタントのドレスを着たクラウディアはこの上なく綺麗で本気で見とれた。
ダンスでの最初のアプローチも成功したと思う。あのクラウディアを公衆の面前で冷静な対応が取れない程度には振り回したのだから。
だがその後はどうだ。大広間でも控室でもディアがいなければ、自分は命がなく、クラウディア自身は一番苦手な人間に既成事実を作られるというおぞましい事態に発展していたかもしれないのだ。
「くそっ」
自分の不甲斐なさに嫌気がさす。だが、奴の闇魔術が厄介なのもまた事実。どう対処して奴を牢にぶち込むか、シルヴェスターは一人考え続けるのだった。
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