シュタインベック公爵令嬢の恋愛模様
こたま
1-1 シュタインベック公爵令嬢
今日は今年のシーズンの幕開けを告げる王宮主催の大舞踏会の日だ。
併せて、今年16歳になった少女たちのデビュタントも行われる。
シュタインベック公爵家の一人娘、クラウディア・フォン・シュタインベックも本日晴れてデビュタントを迎える。
クラウディアのデビュタント用のボールガウンは、仕立て屋と母のビルギット、祖母のマルレーネ、そしてなぜか現王妃であり母の親友でもあるのクレメンティア・フォン・ギルネキアまで加わって、練りに練った最上級のドレスであった。
伝統的なスタイルながら、凝った刺繍が施され、華やかなレースが品よくあしらわれている。
胸元やスカートには小粒のダイヤモンドが縫い取られきらきらと輝いている。
ドレスに合わせたオペラグローブも当然一見の価値がある品だ。
その日シュタインベック邸の侍女たちは喜々としてクラウディアの準備に取り掛かっていた。
大切な大切な一人娘のお嬢様がデビュタントを迎えるのだ。侍女たちにとっても一大事である。
普段よりゆっくり目に起床し、少し遅めの朝食をとった後、まずは浴室へ案内される。
髪も体も侍女たちの手によって隅々まで清められた。
浴室を出ると髪には香油を付け丁寧にくしけずり、体と顔も香油でマッサージされる。
それが終われば、髪は品良くしかしながら少しの遊び心を加えた型に結い上げられ、顔には化粧が施される。
もともとクラウディアは銀髪に薄紫色の瞳、シミ一つ無い白い肌のふんわりとした女性だ。
そこへ、デビュタント用の純白のドレスを合わせては、少しばかり印象がぼやけてしまう。
施される化粧はそのあたりを考慮して、薄く薄くぼかしながらもぼやけない程度に色を載せていく。
さすがは筆頭公爵家に務める侍女たち、絶妙な塩梅だ。
最後にドレスを着つけられ、全体を微調整して完成となる。
「綺麗よ、クラウディア。よく似合っているわ」
「これで貴女も一人前の淑女ね」
「お嬢様、よくお似合いですわ」
「とても素敵ですわ」
クラウディアは母、祖母、侍女たちからの賞賛の言葉にゆったりと微笑んで礼を言った。
「ありがとうお母様、お祖母様、みんな。とても気に入りましたわ。
この姿でデビュタントに出席できるなんて、
「クラウディア…」
「お嬢様…」
母も祖母も侍女たちもうっすらと涙ぐんでいる。
それを見たクラウディアの瞳にも涙が浮かびそうになるが、ここで泣いてはせっかくの侍女たちの奮闘を台無しにしてしまう。ぎゅっと目に力を込めて、涙を押し留めた。
クラウディア・フォン・シュタインベックは16歳。
銀髪、薄紫色の瞳のふんわりとした女性で、祖母によく似ている。
シュタインベック公爵家の末っ子一人娘であり、家族全員目の中に入れても痛くないほど溺愛しているが、決して甘やかされて育ったわけではない。
母と祖母がクラウディアに対し教育熱心で、最低でも公爵家当主夫人、あるいは自国または他国の王家に嫁いでもやっていけるだけの知識、教養、マナー、ダンス、社交術を幼いころから叩き込まれている。
3人の兄と幼馴染である王家の3王子に囲まれ幸せな幼少期を過ごし、すくすくと成長していった。
そして、白黒火、水、風、土、光、闇の6属性魔術を使う、当代一の魔術師でもある。
◆ ◆ ◆
そのころ、階下ではシュタインベック家の男性陣による壮絶な争いが勃発していた。
何事かといえば、未だ婚約者のいないクラウディアのデビュタントのエスコートを誰がするのかと言う、シュタインベック家の男性陣にとっての重大事項だった。
シュタインベック公爵家当主であり、ギレネキア王国の宰相でもある父ウーヴェ、王太子の側近である長男のギルベルト、第二王子の近衛隊隊長である次男のディートリヒ、第三王子の近衛隊副隊長である三男のヒュベルトゥスの4人がシュタインベック公爵家の男性陣である。
ちなみに祖父のハラルトは領地で隠棲生活を送っている。祖母も普段は祖父と共に領地にいるのだが、クラウディアのデビュタントに合わせて王都へ出てきていた。
3人の兄たちはクラウディア溺愛しているが、ディートリヒは少し不器用で年下の女の子のご機嫌を取るのがうまくいかずに、つい怒りんぼうになってしまう。
ヒュベルトゥスは、一番歳が近いためにクラウディアとよくじゃれあって遊んでいたが、ついつい腹黒、嫌味っぽい性格が顔を出し、口撃でクラウディアをいじめてしまう。
また、クラウディアの方もふんわりとした見かけによらず、意外と負けず嫌いなので、じゃれあいでも口撃でもかなわないのを悔しがった。
そんなクラウディアを助け出し、いつも宥めて笑顔にさせてくれるのが長兄のギルベルトだった。
だからクラウディアはギルベルトに一番懐いていたし、年頃になるにつれ、年の近い男性よりも少し年上の男性が自分は好みなのかもしれないとぼんやり思うようになっていた。
もっとも夢物語としてそう思うだけで、自分の結婚は父の意向、もしくは国王も絡んでくるのをわきまえていたため、現実には自分には手が出しようがない問題と諦めてもいた。
勿論「クラウディアの意向に沿わない男性を連れてくるはずがない」という父に対する信頼もあった。
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