2-7 別室にて
別の控室の用意が整うと、シルヴェスターがクラウディアを横抱きにして移動した。
クラウディアは応接間の奥の寝室に寝かされ、王宮の女官1名とクラウディアの侍女キャロラインが侍女や従者の控室から呼ばれて付き添った。
クラウディアは白黒火、水、風、土、光、闇の6属性全ての魔術を使え、魔力量も多い当代一の魔術師だ。
だが大きくて複雑な魔術を使える分、魔力の減りが早く、何というか燃費効率が良くないのだ。
侍女のキャロラインが念のため持参していた魔力回復のための水薬をクラウディアに渡す。
「さあ、お嬢様。いつものお薬です。お飲みください」
「ありがとう。キャリー」
クラウディアが水薬を飲み干すと、すかさず水が入ったコップを差し出す。
コップの水も飲み干すとクラウディアは大きく息をついた。
「さあ、お嬢様。横になって少しお休みくださいまし」
クラウディアは最後残念なデビュタントになってしまったなと思いながら、それを言葉にする元気もなくぐったりと寝台に横たわった。
◆ ◆ ◆
応接間の方には男性陣6人が集まり、難しい顔で頭を突き合わせていた。
「パウル=ハインツ・フォン・ウェンデルが出てくるとはね」
ギルベルトが忌々し気に口火を切る。
「先ほどの大広間での魔術に関しては、パトリツも見ていて、警告も発している。
だが、控室の侍女の精神操作に関してはディアの感だけが根拠だ。ディアがああ言い切るなら間違いないだろうが、客観的な根拠が無い。
茶から毒物が出てくるだろうが、準備した女官たちは何も覚えていないだろしな」
「さてどうやってパウルを牢屋にぶち込むか……」とシルヴェスターは物騒に呟いた。
「まったく、いつもいつも姑息で嫌な奴だよね」
「せっかくのディアのデビュタントを台無しにしやがって」
ヒュベルトゥスとディートリヒも怒気をにじませていた。
「パウルも焦っているのだろうよ。当代も次代も王家とシュタインベック家の関係は良好だし、魔術的にも優れた者が揃っている。
その代表格がクラウディアだしな」
「ウェンデルは魔術を司る公爵家として存在意義が薄れてきているものね。
王家やシュタインベックほど優秀な魔術師もそういないようだし、厄介なのはパウルだけか」
ビンセントとプラティニがそうウェンデル公爵家の現状を分析している。
「何としてもディアの強い魔力を取り込みたいのだろうな。全く虫唾が走る」
と、シルヴェスターが吐き捨てた。
「当面ディアの警護を強化するが……奴の闇魔法が厄介だな。あれに対処できるのは当のディアとお祖母様しかいない」
「ディアは大人しく守られているより、守る方に意識が行っちまうからな。こと魔術に関しては」
「せっかくデビュタントを向かえて、シーズンが始まったというのにね。
「ったく、火魔術で消し炭にしてやりてぇよ」
「それができたら苦労はないんだけどね」
シュタインベック家の3兄弟が深くため息をついた。
「とにかく、今日のことは陛下と王妃陛下に報告する。大広間での一件だけでも、今シーズンの舞踏会を出入り禁止にすることは可能だろう。
ディアには予定通り今後の舞踏会にも参加してもらう」
「ああ。父には私から報告しておくよ。初日からこんな目にあったディアを、あの父が邸宅に閉じ込めない保証はできないけどね」
やってられるかとばかりに、シルヴェスターが女官にシュナップスを用意させ、一気に飲み干すと、他の者たちもそれに続いた。
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