5-10 男たちのどうしようもない話

 その頃、クレメンティアに取り残された男性陣は国王とシルヴェスターを除いて、お通夜のような状態になっていた。

「イヴァン・ステイグリッツは許せないけどさぁ、あいつの件で一番得をしたのって結局シル兄上だよね」

 第三王子プラティニがトゲトゲの毒を吐いた。

「ディアとの婚約もすぐ決まったしぃ?、夫婦の部屋で生活することになったしぃ?」

 シュタインベック家3男のヒュベルトゥスが追従する。

「「シル兄上ばっかりずるいよねぇ」」

「おいおい、不可抗力って言葉を知らないのかい?」

 シルヴェスターが苦笑いしてそう言っても2人は「ふん」とそっぽを向いている。

「私は私で不満もあるのだよ。ディアは婚約を了承してくれたけど、私の望んだ形とは異なるしね。それもこれもイヴァン・ステイグリッツのせいだけど」

「シル兄上、それは贅沢だよ。望んだ形と言うのがどういうものか知らないけど、僕もビンス兄上もディアの眼中に入る隙さえ無かったんだから」

「全くだな。ディアのギル兄上とシル兄上好きも困ったものだ」

「シル兄上たちが家に泊りに来た時に、ディアがギル兄上とシル兄上と一緒に寝ると言って聞かなかったことがあったな。今回もそれと同じなんじゃないのか」

「ビンス、ディー口が過ぎるよ。幼馴染の好きなのか、男女の恋情なのか、一番気にしているのはシルだろうに」

「まあ、そうだね」

 ギルベルトのフォローにシルヴェスターが困ったように頷いた。


「シルヴェスター殿下、くれぐれも添い寝までですからな。お忘れなきよう」

「宰相まで……ちゃんと承知しておりますよ」

「私は契りを交わしても構わぬと言っておるのに、宰相の頭が固くてな」

「陛下、お戯れが過ぎます」

 本格的にお通夜状態の宰相と、どこか揶揄うように楽しんでいる国王も困ったものだ。

「今の段階で契りを交わしても構わないとは、陛下も思いきったことをおしゃいますね」

 ビンセントが驚いたように目を丸くした。

「だってそうだろう?契りを交わして、純潔を失い、他の男の子を孕んでいるかもしれない令嬢を他国の皇太子が受け入れられるわけがない。ディアを守るのに一番有効な手立てだとは思わないかね?」

「それはそうかも知れませんが…………」

「ちょっとさすがにディアの意思を無視して突っ走りすぎですね。陛下」

 さすがにそれはないとビンセントとプラティニが首を横に振った。

「父は添い寝までと釘を刺してるようですが、シル兄上、理性が持つんですか?」

「そうだよねぇ。好きな女性と共寝だものね。逆に理性が持ったら男じゃないと言うかぁ?王立貴族学園時代には、ギル兄上とよく深夜に寮を抜け出していたとも聞きますしぃ?」

「「っな!?」」

 ヒュベルトゥスからとばっちり受けたギルベルトもシルヴェスター同様言葉を詰まらせた。

「ほう、それは初耳ですな。シルヴェスター殿下。ギルも。もしやおかしな病気などお持ちではないでしょうな?」

「「当たり前です!!」」

「ディーとヒューの言う通りだな。シルがいくら理性を手放さぬように気を引き締めていたとしても、ディアの反応次第ではどうなるか分からんだろう。だから先に許可を出しておくのだよ」

「ディアが閨で男を手玉に取れるとは思いませんしね。無意識の反応しか返せないでしょう。男としてはその方が理性を焼き切られますね」

「そうだろう、そうだろう」

 ヒュベルトゥスの言葉に、ようやく理解者が現れたと国王は満足げに頷いた。

「ディーもヒューも、何てことを言うんだ。大切な妹が婚約式も結婚式も未だだと言うのに純潔を奪われても良いと言うのか!?」

 宰相がぐわっと目を見開いてディートリヒとヒュベルトゥスに詰め寄る。

「そう言う訳では無いですけど……」

「同じ男として、男の本能が分かるから言っているまでですよ。父上にだって身に覚えが無いわけではないでしょう?」

「ぐぬっ」

 今度は宰相が言葉を詰まらせた。

「なんだか堂々巡りというか、結論の出ない議論になってきたな」

「こんな話題のネタにされていたとなれば、ディアが気の毒です」

 ギルベルトとビンセントが顔をしかめた。

 ギルベルトが隣にいるシルヴェスターの肩をたたいた。

「結局はお前次第だ。ディアを頼んだぞ。だが決して泣かせるなよ」

「分かっているよ」

 シルヴェスターがギルベルトの言葉に頷いたところで、部屋を見に行っていたクラウディアたちが戻ってきた。


 そして王妃のクレメンティアから「イヴァンの件が片付いた後もクラウディアの王宮にお泊り」と言う超特大の火球を落とされ、国王とシルヴェスター以外の男性陣の心は焼け野原になった。

     

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