3-7 ウェンデル公爵家へお宅訪問

 フォルカーが逮捕令状と家宅捜索令状を書き上げ、自分のサインを入れるとシルヴェスターに手渡した。

 それを確認したシルヴェスターもまた自分のサインを入れると、クルトに至急軍務を司るシェーンメツラー公爵と司法を司るグローネフェルト公爵のサインをもらい、最終的に国王の玉璽をもらうよう指示して、送り出した。


 令状が揃うとそれをもって近衛騎士団とともにウェンデル公爵家へ騎馬で急行した。

 クラウディアは乗馬ができないわけではないが、さすがに近衛騎士団とともに走れるほどの技術はない。

 シルヴェスターに抱き上げられ、横乗りする形でウェンデル公爵家へ向かった。

 シルヴェスターの直属の配下の者も、留守居役を押し付けられたクルトを除いて同行している。


 ウェンデル公爵家へ到着するとシルヴェスターを中心にギルベルトと令状を持つフォルカー、シルヴェスター付き近衛騎士団の隊長であり近衛副騎士団服団長のパトリツが前面に並ぶ。

 その後ろにグラシアノ、シュテファン、および近衛騎士団の面々がウェンデル公爵家の正門を取り囲むように並んだ。

 クラウディアにはシルヴェスター付き近衛騎士団副隊長のコンラート・フォン・プロイセン他数名が護衛するように付いている。


 シルヴェスターが令状の内容を風魔法で拡声し読み上げた。

「パウル=ハインツ・フォン・ウェンデル、貴殿には昨日の夜会での魔術無断使用の罪により逮捕令状が出ている。また同時に家宅捜索令状も出ている。即刻出頭されよ。

 繰り返す。パウル=ハインツ・フォン・ウェンデル、貴殿には逮捕令状と家宅捜索令状が出ている。即刻表に出てこい」


 シルヴェスターが令状を読み上げている間、クラウディアは風の魔術を使い、公爵邸内の様子を慎重に探っていた。

『パウル様…表が……』

『何、王太子?逮捕令状に家宅捜索令状だって?』

『はい……』

『全く、真昼間から騒々しいよね。お望み通り出て行って、静かにさせてやろうじゃない』

 家令か誰かとパウルの話し声が聞こえ、玄関に向かっているのがうかがえる。

「来ます」

 クラウディアは隣にいるコンラートにそう小声で告げると、玄関が開いたと同時に魔術封じの結界と身体拘束の魔術を飛ばす。

 まさかクラウディアが同行していると思ってもみなかったパウルは、呆気ないほど簡単にクラウディアの魔術で身動きが取れなくなった。

 クラウディアは続けて地面の土から少し大きめの石というか…小ぶりの岩というかを作成すると、パウルの頭上に落とし、意識を奪った。

 ほっとして、結界を解くとすぐに近衛騎士団員が出力最大の魔術封じの首輪を取り付ける。


 同行していた家令が呆気に取られていると、中からパウルの父母が出てきた。

 2人はパウルが魔術封じの首輪を付けられたうえ地面に倒れているのを確認すると、怒りに燃える目で周囲を睥睨した。

 そしてクラウディアを見つけると

「貴様のせいか」

 と言う声と同時にクラウディアに向けて父親が火魔術を母親が風魔術を放とうとした。

「いけない!」

 クラウディアは咄嗟に魔術封じの結界と水魔術を放つ。結界の中を水で満たして呼吸困難に陥りさせ意識を奪うと、結界を解いて「今です!魔術封じの首輪を!」と叫んだ。

 近衛騎士団員が父母に魔術封じの首輪を付けている間に、クラウディアは近くにいた家令の意識も同様にして奪った。


「な…なんか、呆気ないな…」

「あ…ああ…。私たちも騎士団員も必要だったか?」

「いや……」

 グラシアノとシュテファンが呆気に取られて首を振っている。

 ギルベルトは苦笑いすることしかできない。

 少し緩みかけた空気をシルヴェスターの命令が引き締めた。

「これから家宅捜索に入る。使用人は魔術封じの首輪を付け、一か所に集めておけ!抵抗するなら魔術を使っても抜刀しても構わん!一人残らず捕えろ!」

 近衛騎士団員たちが使用人たちを確保している間に、シルヴェスターやギルベルトたち、それからクラウディアと護衛のコンラートたちが邸宅内を一部屋一部屋調べていく。

 屋敷内には焚書指定され処分されたはずの書物がこれでもかと言う程保管されていた。

 また、毒薬、薬、魔法薬の類も山ほど置かれていた。

「これでは一族郎党連座だな。王宮の魔術研究員もウェンデル公爵家とつながりの深いものは取り調べの必要がある。

 これだけの書物や薬品を検証するのにどれだけの研究員が残るか……」

 シルヴェスターは頭が痛いとばかりに呟いた。

「パトリツ、この場はお前に任せる。パウルと父母、使用人たちの移送、証拠品の押収を頼む。

 私たちは急いで王宮に戻り、騎士団を動かしてウェンデル一族の者と王宮の研究員に急襲をかける。

 ギル、ディア、フォルカー戻るぞ」

「ああ」

「かしこまりました」

「承知いたしました」


 再びシルヴェスターと騎乗し王宮に戻ると、フォルカーがウェンデル公爵家の親族、および王宮魔術研究員への逮捕令状、家宅捜索令状の作成に取り掛かる。

 その間にシルヴェスターは騎士団長を呼び出すと、王都、および領地に住むウェンデル公爵家の親族の許へ急行するよう命じた。

 また王宮警護騎士団の団長も呼び出し、王宮魔術研究員への捜索を命じる。

 王宮魔術研究員はそれ程人数がいるわけではないから、一人一人慎重に取り調べを行い、ウェンデルの親族だったり傾倒している者たちは魔術封じの首輪を付けて牢屋に放り込んだ。

 ウェンデルに反発していたり、距離を取っている研究員を残して、彼らにウェンデル公爵家から押収してきた書物や薬物の検証に取り掛からせる。

 ここまで手配を整えると、外はどっぷり闇に包まれていた。


 その後、ウェンデル公爵家の一族の屋敷からも焚書指定された書物や多数の薬品類が出てきた。

 王宮での魔術の無断使用、およびそれらの咎でパウル、およびウェンデル公爵夫妻、そして一族郎党処刑の処分が下った。

 王宮の魔術師もウェンデル公爵家との関わり次第で量刑を決められ、牢に放り込まれた。

 これにより魔術研究を担当する公爵家だったウェンデル家はお取り潰しとなったのだった。

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