第6話 中学三年・五月 その2


 俺と篠川しのかわ瀬奈せなは、三年間ずっと同じクラスだ。それはつまり、授業も同じ時刻に終わるということだ。従って、必然的に部活動に行くのもいつも一緒、ということになる。


 だが――昨日のことがあるので、今日はどうにも一緒に行くのは居心地が悪い。できるなら、さっさと一人で部室へと向かいたいものなのだが――。


井神いかみくん、部活行こ」


 いつもと変わらぬ雰囲気で、瀬奈せなは俺に声をかけてくる。


「あ、ああ・・・・・・」


 俺は瀬奈に促されるままに、席を立ち、パソコン室へと向かう。


 二人で並んで歩きながら、俺は思う。謝るなら、今しかない。


 心臓の鼓動が、無駄に早くなる。ああ、もう。やっぱり謝罪するのって勇気がいるな。でも、ここで謝る機会を失したら、最後な気がする。


 俺は口を開く。


「なあ、瀬奈・・・・・・」

「?」


 小首をかしげる瀬奈に、俺は頭を下げる。


「昨日は、悪かった。無神経なこと言って。瀬奈の考え、否定したかもしれん。だから、ごめん」


 深く深くこうべを垂れる俺。


「・・・・・・」


 十秒ほどした後、頭上から瀬奈の特徴的な声がする。


「井神くん、顔上げて」


 言われるままにする俺。


 廊下で、瀬奈と向き合う俺。


「気にしないで。井神くんが、わたしのことを思って言ってくれているの、分かっているから。だから、昨日のことは水に流そう」

「・・・・・・ありがとう」


 俺はそう返すのが精一杯だった。


 瀬奈と俺の間に、緩やかで暖かな空気が満ちてきた。


「それじゃ、行こ」

「ああ」


 瀬奈に先導される形で、部室に向かう俺たち。


「・・・・・・でもさ。昔、わたしが自分の胸でコンプレックス抱えてきたとき、井神くんが励ましてくれたじゃん。あのとき、わたしすごく嬉しかったんだよ。覚えている?あの、一年半くらい前のこと・・・・・・」


 普段、あのことかな。俺は一年半くらい前のことを思い出す。

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