第25話  中学三年・十二月

 

「今年も、もう終わりよねー」


 隣を歩く篠川しのかわ瀬奈せなは、そう呟く。


 十二月も半ばとなり、いよいよ高校受験が迫ってきていた。


「ところでさ、井神いかみくん、今年のクリスマスはなにか予定ある?」

「んー・・・・・・なんかあったかなー」


 記憶を辿たどってみるが、特に予定はない。


「そういう瀬奈は、なにか予定があるのか?」

「うーん・・・・・・家族とご飯食べにいく、かな」

「いいじゃねえか、仲が良くて」


 イベントには無頓着な我が家は、恐らく普通に過ごすだろうからな。瀬奈の家みたいなの、正直ちょっと羨ましくはある。


「ま、クリスマスはどこも混むから、家でじっとしておいた方がいいかな、俺は」

「もう、井神くんたら・・・・・・もうちょっとこう、世の中の流れを楽しもうって考えにならないの?」

「んー、そういう気持ちもないことはない、けれど」


 ただ単純に、沢山の人となにかするのが、苦手なんだよな。


「二人とかぐらいなら、大丈夫かな」

「え?それは、二人くらいの人数でなら、クリスマスも楽しめるってこと?だったら・・・・・・わたしと、クリスマスお祝いする?」

「でも瀬奈、クリスマスは家族と過ごすって・・・・・・」

「だからさ、その前にね。わたしたち二人で、クリスマスをお祝いしよう、てこと」

「ああ、そういうことか」

「それで、具体的にはどうしようかしら・・・・・・?」


 瀬奈は楽しげに、予定を立てていく。


 受験生だけれど、まあたまには息抜きもいっか。



 十二月二十日。二学期最後の日。終業式で、昼には学校が終わる。


「年が明けたら、いよいよ高校入試だ。冬休み、たるむことなく、特に気を引き締めて勉強するように。以上」


 担任の稲荷川いなりかわが、そう短く締めくくり。冬休みが始まる。


 今年、俺たちの担任になった稲荷川。やや高圧的な雰囲気だが、話をいつも手短に済ませるところだけは、評価したい。年が明けたら、また進路で面談とか、色々とあるだろうが。


「それじゃ、井神いかみくん。レッツゴー」


 瀬奈の誘いに応じて、俺たちは学校に出る。 結局、色々と予定を調整した結果、終業式の今日が、俺と瀬奈、二人きりのクリスマス会になった。


 実は、河合かわい咲良さくら河合かわい美菜みなも誘ったのだが、二人ともなにやら用事があるとのこと。代わりに、正月の初詣はつもうでには、文芸部の四人一緒に行くことになった。


 それで、結局どこでクリスマス会をすることになったかというと――。


「井神くん、遠慮せずにいらっしゃい」

「お、おう・・・・・・お邪魔します」


 初めて来る瀬奈の家。緊張しながら玄関をくぐる俺。


 そう、クリスマス会は瀬奈の家で開催することになったのだ。


 俺は、身を固くしながら、玄関先で靴をそろえて、篠川しのかわていに入る。


 不意に、瀬奈がくるりとこちらを振り向く。普段はあまりお目にかからないような、蠱惑こわくてきな微笑みを浮かべながら、


「あ、そうそう井神くん。言っとくけれど、いま、親いないからね。兄も、今日はしばらく帰ってこないよ」

「そうか」


 俺は、内心の動揺を表に出さないように努めながら、簡潔に返す。


「あっれー?井神くん、顔赤いよー」


 からかうような口調の瀬奈。


「嘘つけ。俺は二次元にしか興味がないんだ」

「んー?わたし、そんな話したっけー」

「とりあえず、部屋に案内してくれ」

「はいはーい」


 よく考えたら、瀬奈の部屋に入るのも初めてだな。なんか、ドキドキしてきたな。

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