第12話 中学二年・九月


 夏休みも終わり、九月になった。


 小学生のときから毎年のことだが、やはりこの夏休み明けの二学期の第一日目というのは、とにかくしんどい。しんどすぎて、この日の学生の自死も多いらしい。誰だ、二学期の初日なんてものを発明したやつは。沢山の生徒を死に至らしめた罪で、処刑してやりたいくらいだ。


 うだるような暑さだ。地球温暖化の所為せいなのか、俺たちの住むこの地方都市も、年を追うごとに夏の暑さと湿気が、爆上がりしている。俺たちが大人になる頃は、地球の平均気温は水星ぐらいに上昇しているのではないか。さすがにそれはないか。


 益体やくたいもないことを考えながら、登校する俺。早く、学校に行かないと。クーラーの効いた教室で、涼まないと。

 


 教室に入ると、丁度誰かがクーラーをつけたところだったようだ。ブォォォォォ、

という機械音が鳴り響き、冷気を吐き出し始めている。


 俺たちの入学と同時に、この中学にはクーラーが設置されたことは、実にありがたいと言うほかない。先輩たちの話によると、クーラーの入る前は、夏はマジで焦熱地獄のごとき状態だったという。


 運転し始めたばかりのクーラーの冷気に当たりながら、俺は自分の席に座る。


 右斜め前方向、クラスメイトかつ同じ文芸部の篠川しのかわ瀬奈せなの席が目に止まる。まだ彼女は来ていない。学期始めに限らず、あいつは登校時刻が遅い。睡眠時間が人一倍長いからだろう。


 だが――始業のチャイムが鳴っても、瀬奈は来なかった。あれ・・・・・・大丈夫かな。二学期初日には、自死が多くでる。まさか、瀬奈も・・・・・・そんな悪い方に思考が転がり落ちそうになっていたとき、担任が「今日は篠川は体調がすぐれなくて、休みだそうだ」と言っているのを聞き、ホッと安堵する俺。よかった、風邪でもひいたのか。いや、風邪ひくのはよくないけれど。自死とか行き過ぎた最悪の想像をしていた俺も、ちょっと暑さでおかしくなっていたのかもな。



 だが、次の日もそのまた次の日も、瀬奈せなが登校することはなかった。



 普通ならここで、風邪が長引いているんだろうなと考える。たかが三日程度の休みだ。だが、俺はなにか妙な引っかかりを感じた。担任が、瀬奈の欠席を告げるときの態度。どこか他人事ひとごとというか、なにかを誤魔化ごまかしているような印象を受けた。

 

 二学期の三日目、放課後。今日は新学期始まって以来の文芸部活動だ。


「久しぶり~井神いかみ。あれ、瀬奈せなっちは?」


 文芸部の同期・河合かわい美菜みなが、尋ねてくる。


「ここ三日ほど、風邪ということで休んでいるけれど・・・・・・美菜に咲良さくらは、なにか聞いていないか?」

「ううん、私はなにも」

「うちもだな」


 二人そろって首を振る咲良と美菜。


「変ねえ・・・・・・風邪とかで部活休むときは、一言連絡いれるんだけれどね、瀬奈ちゃん」


 首をかしげる咲良。


「なあ井神。今晩、瀬奈せなっちに一度連絡しときなよ」

「ええ、俺が?美菜か咲良がすればいいだろう?」

「うーん・・・・・・こういうときは、井神くんの方がいいんじゃないかな」

「どうして?」

「それはまあ、ねえ?美菜ちゃん」

「ああ、そうだよな咲良」


 二人してうなずき合う河合咲良と河合美菜。ったく、なんだよ。その分かっているでしょ?的なオーラは。


「なんで俺が・・・・・・ま、いいけれど。今晩、瀬奈に連絡しとくよ」

「よし、オーケー。それじゃ井神、早速だけれど夏休みにうちが書いてきた作品を読んでくれないか」

「それが終わったら私のもね。あと、井神くんもちゃんと書いてきた?」

「ああ、とりあえずな・・・・・・」


 こうして、我が文芸部の二学期最初の活動が始まる。

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