第27話  中学三年・一月

 

 どちらかといえば夜型の俺は、そこそこ小さい頃から、大晦日おおみそかの夜は、夜更かしして、年が明けるのを待つのが、恒例となっていた。


 それは、中三の十五才となった今年も変わらない。テレビの年越しカウントダウンをぼんやりと眺めていると、あっけなく年が明ける。


『新年、あけましておめでとーございます!!』


 にぎやかな声が、画面の奥から出てくる。


 新年を迎えて、1分ほど経ったとき。テーブルの上に置いていたスマホが、ピロンと通知音を鳴らす。


『あけおめー!!!』


 文芸部のグループLINEにて、河合かわい美菜みなが、シンプルかつ元気いっぱいな新年のあいさつを飛ばしてくる。


『あけましておめでとうございます。みんなで受験を乗り切ろうね!』

 と返すのは、篠川しのかわ瀬奈せなだ。


『あけましておめでとう。みんな、それぞれの進路しんろすすんでバラバラになっても、仲良くしていこうな』


 俺もまた、返事をする。


『井神、せっかく新年なんだから、もっとこう、景気のいいあいさつしないか?』


 美菜から真っ先に突っ込みが入る。『はいはい』と受け流しの返事をしたところで、河合かわい咲良さくらからのメッセージが届く。


『あけましておめでと~ところでみんな、明日、じゃなくて今日、初詣はつもうでにいかないかしら?』

『行こ行こ!』

『異議無し』


 即座に返信する美菜と瀬奈。『えー、人多いしめんどい・・・・・・』と打ち込んでいた俺も、賛成しないといけない空気になる。


 こうして、俺たち文芸部四人組は、初詣に参ることになる。



 女子と初詣。となると、どうしても素敵な着物姿を妄想してしまうのは、ごく自然なことだろう。


 だが文芸部三人娘は、そんな俺の期待など最初から相手にしないとばかりに、もこもことした防寒着に身を包んで登場した。


「あ、井神いかみくん。その顔は、わたしたちの着物姿を期待していたって感じね。ごめんね~普通の洋服で」


 からかうように言ってくる瀬奈。


「うちら、これでも受験生だからな。晴れ着姿なんか、来年にとっておこうぜ」


 至極しごくまっとうなことを言う美菜。


「いや、その初めて目にする防寒着も、みんなそこそこ可愛いぞ」

「へえ・・・・・・井神くんも、色々と言うようになったわね。ありがと」

 咲良が感心したようにひとり頷く。


 元日の神社といえば、ものすごい人混みを想像していたが、そこまで大したことはなかった。地方の神社となると、こんなものだろうか。


 四人そろって、ご神前で参拝をする。


「ところでみんな、なんてお願いした?」


 咲良の問いかけに、美菜が

「そりゃみんな、志望校合格、じゃないの?」

「私は普通に、家族ともども一年間、無事に過ごせますように、だけれど」

「受験生だから、普通は合格必勝とかだと思ってた・・・・・・井神と瀬奈っちはなんて?」

「俺は今年も良いことがありますように、て」

「わたしは、特になにも考えていなかったなあ・・・・・・一年を無事に迎えることができました。今年もよろしくお願いします、て感じ」

「え?瀬奈っち、グラドルとして成功しますように、みたいなことお願いしたとばかり思っていた・・・・・・」

「それって、神様にお願いすることかしら?」

「んー・・・・・・結局、具体的なお願いしたのって、うちだけ?」

「初詣であまり具体的なお願いはするものじゃないっていうでしょ」

「そうなの?」

「してはいけない、てほどのものじゃないけれど・・・・・・」

「むー・・・・・・よし、それじゃおみくじでも引こう」


 美菜に連れられて、俺たちはおみくじを引く。


 美菜、咲良、瀬奈、俺。全員中吉だった。


「なんだよ、これ」

「すごい偶然ね」


 おみくじを見せ合いながら、思わず笑う俺たち。


「全員おなじのを引くって、どれくらいの確率かしら」

「大吉、中吉、小吉、吉、末吉、凶、大凶、全部で七種類あると考えると、単純計算で二四〇一分の一だな」

「うわ、そう考えるとすごいな」


 まあ、やたらと中吉ばかりが多く入っていたとも考えられるが。


「それじゃ、おみくじはここにむすんで・・・・・・」


 四つの中吉を、むすび所にむすびつける俺たち。


「さーて、一通り初詣はつもうでらしいことはしたな」


 俺は改めて、文芸部の仲間たちを見る。瀬奈、咲良、美菜、そして俺。なんの因果か同じ部活になった、四人組。このメンバーでこうして過ごすのも、ひょっとして最後かもしれない。そう考えると、色々とこみ上げてくるものがあるな。いよいよ本格的に高校受験が始まるし、そうなれば必然的に、四人で会う機会はなくなってしまうだろう。


井神いかみ、どうした?辛気しんきくさい顔して」


 美菜の指摘に俺は、

「いや、何でもない」

「井神くん、もうこうして四人で会えるの最後かも、て思った?」

「瀬奈、なんで分かるんだよ。エスパーかよ」

「それくらい、すぐに想像つくわよ」

「なんだ、そんなこと。じゃあさ、来年の初詣も、こうして四人で集まる。そういうことにしよう」

「それができるかなって、話だよ」

「いいじゃないの。そう決めておくだけでも」


 咲良もそう言う。


「そうだな。じゃあ、また来年」

「いや井神くん、それはまだ気が早すぎるって。冬休みがあけたら、また学校で顔を合わせるでしょう」

「それもそうだな」


 俺は笑う。続いて瀬奈が、美菜が、咲良が笑う。笑いの連鎖反応。


 俺たちの正月は、穏やかに過ぎてゆく。

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