第21話 中学二年・十一月


瀬奈せなってさ、眼鏡を忘れたときって、どうしているんだ?」


 いつもの放課後。俺は同級生の篠川しのかわ瀬奈せなに、ふと思いついた疑問をぶつける。


「え?そもそも忘れることがないからね・・・・・・眼鏡かけていない状態で、ぼんやりとした視界のままだと、朝、家の玄関を出るまでには気付くしね」

「悪い、質問のしかたが悪かった。つまり、眼鏡してないときは、コンタクトしているの?て聞いているの」

「むむむ・・・・・・?いまのところ、わたしはコンタクトレンズは持っていないけれど。井神いかみくん、ヘンなこと聞くのね」

「あれ?でも、昨日は確か、眼鏡してなかったよな・・・・・・」

「ああ、あれね・・・・・・実は、いつもしている眼鏡のフレームが、学校についてすぐに緩んじゃってね。で、使えなくなったから仕方なく、昨日きのう一日いちにちは眼鏡なしで過ごしていたのよ。黒板とか見えづらくって、けっこう大変だったんだよ?」


 なるほど、そういう事情があったのか。昨日は部活もなく、瀬奈と会話を交わす機会がなかったからな。


「で、一応フレームは直ったのだけれど・・・・・・そろそろ買い換えどきかな、とも思っているのよね」

「瀬奈ってさ、いつ頃から眼鏡なんだ?」


 少なくとも、俺の記憶にある限り――つまり中学入学以降は、ずっとかけているな。


「小六のはじめくらいだったかしら。だからもう、いまのこの眼鏡めがねって、2年半は使っているのよね」

「ふうん・・・・・・ま、買い換えたかったら、そうすればいいんじゃねえの」

「そうよねえ。でさ、井神くんって、何色のフレームが好き?」

「え?」


 俺は瀬奈のかけている眼鏡をまじまじと見る。ごく普通の、黒縁くろぶちだ。


「今と変わらずでいいんじゃねーの?」

「もう・・・・・・イメチェンしたいから、なにか他の色にしようかな、て説明してるのよ」


 ああ、そういうことか。だったら何が似合うかな。俺は改めて、瀬奈の顔を見て、彼女に相応ふさわしい色について考える。


「井神くん・・・・・・あんまし、見つめないでもらえるかしら?」


 瀬奈が頬をかすかに赤くして、抗議する。


「ああ、悪い悪い・・・・・・そうだな、ピンクとかどうだ」

「えー・・・・・・なんか、こどもっぽい」


 嫌そうな顔をする瀬奈。


「だったらいっそのこと、ふちなしでいいんじゃねーの」

「それもなんかなあ・・・・・・眼鏡の色って、わたしらしさを出せる数少ない部分じゃん。そこで勝負をしたいと思わない?」

「知るかよ、そんなの。じゃあ、青色とか」

「青、ねえ・・・・・・うん、分かった。ちょっと参考にさせてもらうわね」


 まったく、たかが眼鏡の色くらい、なんでもいいだろう。そう思いながら、俺はパソコンに向き合い、本日の作業を進める。


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