第16話 中学二年・二月


「ところで井神いかみくん、唐突に、単刀直入に尋ねるけれど、好きな女性のタイプは、どのようなものかしら?」


 放課後、文芸部にて。いつものようにカタカタとキーボードを打ちながら文章を作成しながら、隣の篠川しのかわ瀬奈せなと会話をしていたところ、いきなりこんな質問が飛んできた。


 え?いきなりどうしたんだ、瀬奈。異性にそういうことくのは、反則だぞ、勘違いの元凶だぞ。だが残念。俺にはとっておきの切り返しがあるのだ。


「そもそも俺、三次元には興味がないからな。ゆえに、好みのタイプとかも存在しない」


 即答する俺。どうだ、こう答えれば何も俺のことを知られないに違いない。


「うんうん。だから、二次元の女の子では、どういうタイプが好みなのか、て質問しているのよ」


 あれ?珍しく、瀬奈が食い下がってきたな。これは少し真面目に答えないといけないな。


「そうだなあ・・・・・・妹キャラ、とかかな?」

「へえ、ちょっと意外ね」

「どうしてだよ。可愛いじゃん、妹キャラ」

「それは認めるけれど・・・・・・井神くん、現実に妹さんがいるでしょ。だから、あまりアニメとかの妹キャラには、魅力を感じないのかな、と思ったのだけれど」

「どうしてだよ。むしろ、現実の妹に辟易へきえきしているからこそ、フィクションの世界の妹に癒やされたいんだよ」


 まったく、俺の妹ときたらこの前も、俺の部屋に勝手に入り、あれこれと物色して、それを咎めたら「クソ兄貴」だの「ごみいちゃん」だの反論しやがって・・・・・・どこでそんな悪い言葉を覚えたのだろうか。


「へえ・・・・・・虚構の“いもうと”に癒やされたい、ね。“お兄ちゃん”って、そんな風に思っているんだ」


 なにか含みのある言い方をする瀬奈。そここで俺は気付く。そういえば瀬奈にも兄が一人いた。つまり、彼女もまた妹なのだ。


瀬奈せな、別に瀬奈のことが嫌いとか言っているわけじゃないからな。あくまでも俺の妹に限っての話だ」

「ん?なんのことかしら」


 とぼけた口調の瀬奈。だが、それ以上俺を追求する気はないみたいで、話を進めていく。


「それで、他に好みのタイプの二次元の女の子は?ツンデレとかは好きなの?」

「いや、いまひとつかな・・・・・・」


 現実にいたら、ああいうタイプは一番疲れるだろうしなあ。いや、現実の話ではなく二次元の話なのだが。


「むしろ、癒やされキャラが一番だな。

ゆるふわな雰囲気で、包み込んでくれるような優しさあふれるキャラが・・・・・・」

「そうなのね・・・・・・参考にさせてもらうわね」

「なんの参考だよ」

「なんでもいいじゃないっ!・・・・・・あれよ、今書いている小説のキャラ設定に、ね」


 慌てたように弁明する瀬奈。そこまでムキにならなくてもいいじゃないか。


「それじゃ、次の質問よ。井神くんは、二次元の女の子は眼鏡っ子派?それとも眼鏡無し派?」

「それは・・・・・・」


 俺は思わず言葉に詰まる。眼鏡をかけている瀬奈を前に、迂闊うかつに眼鏡っ子を否定するような真似はできない。


 頭をフル回転させて、やや言い訳じみた答えをひねり出す俺。


「気にしない、が正直なところかな。そもそも眼鏡っ子キャラは、二次元に少ないからさ。どうしても、好きなキャラを上げると、眼鏡無しのが多くなる。でも、好きになってしまえば、眼鏡をかけていても全然関係ない、てところだな」

「なるほどね・・・・・・眼鏡ありでもオーケー、と」


 スゥッと瀬奈の深呼吸する音が聞こえる。そして、これまでより明瞭な声が、質問をしてくる。


「じゃ、最後の質問ね。ズバリ。井神くんは、巨乳派?貧乳派?」

「は?・・・・・・おい、ちょっと待て。なんだその質問は」

「なにって、二次元の女の子の好みのスタイルを質問しているだけよ」


 涼しい顔でそう言い返す瀬奈。


 いやいやいや、そりゃないだろ。ここで貧乳派だなんて答えたら、瀬奈のことを否定するみたいな雰囲気になるから絶対できないし・・・・・・でも、だからといって巨乳派だといったら、俺が瀬奈の胸に欲情しているみたいになるし・・・・・・ああ、もうなんだこの質問。絶体絶命じゃんか。


「二次元の女の子には、巨乳・貧乳どちらもいるからね。さっきのみたいな答え方はなしよ」


 瀬奈はいたずらっぽく笑う。くそ、ぜったい俺の反応を見て、楽しんでいるだろこれ・・・・・・。


 仕方ない。ここは腹をくくって、答えることにしよう。


「ちっこいのより、スタイルのいい方が好きだ」

「それはつまり?」

「・・・・・・巨乳派、だ」


 自分でもびっくりするくらいの、消え入るような小さな声だった。だが、瀬奈には伝わったらしい。


「そ、そう・・・・・・それは良かったわね・・・・・・ありがと」


 瀬奈の頬は、朱に染まっていた。なんだよ、自分から話題を降ってきたくせに。これって、二次元の女の子の話だったよな?


 瀬奈はぷいとあっちを向いて、俺に話しかけてくる。


「ところで井神くん・・・・・・今度、コードギアスの映画があるみたいだけれど、一緒に見に行かないかしら?井神くんの好きな妹系も、眼鏡っ子も、巨乳キャラもいるみたいだし・・・・・・」

「なんだよその誘い方。俺の好きなタイプがいてもいなくて、見に行くつもりだよ」

「そう。じゃあ良かった・・・・・・それじゃ、今週末でいいかしら?時間帯は・・・・・・」


 俺と瀬奈は今週末の予定について話し合う。

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