第30話 中学二年・二月 その2
相変わらず、分散登校の日々が続いている。 学校のない日は、家で受験勉強。というか、それくらいしかすることがない。
あーもう、勉強いいんじゃね?という気持ちになる。これだけしときゃ、受かるでしょ。と思いつつも、サボる気はしない。というか、こういう状態でサボってゲームしても、あまりのびのびと遊べないしな。
夜十時を過ぎた頃。久々に、
『
「んー・・・・・・家に
『でしょうねえ。といってもそれはわたしも同じか』
「瀬奈は、受験勉強の方ははかどっているか?」
『まあまあってところね。それより、わたしのグラビアアイドル――というより芸能活動そのものが、どうなることやらよ。・・・・・・事務所もどこも、前代未聞の事態だから、てんてこ舞いって感じ。まだデビューすらしていないわたしなんて、ね』
「でもまあ、いずれはこの
『だといいんだけれど。でもその前に、まだ始まってもいないわたしの芸能人生が終わるかも・・・・・・』
いつになく後ろ向きな瀬奈の言葉。やっぱり、家に籠もってると、マイナス思考になりがちなのかもな。人のことはいえないが。
「終わりはしないだろ。瀬奈ならいけるさ」
『へ?』
瀬奈のきょとんとした顔が思い浮かぶような声が、電話口を通して聞こえてくる。
「だってさ、芸能って国家とかの一定の規模以上の社会集団には、必要な不可欠なものだろう?不特定多数の人々に見られて、意識される、アイドル的存在は、古代から現代まで連綿と存在してきたわけ」
『そうかしら?古代世界に、いまみたいな芸能人がいたとは考えにくいけれど』
「踊り子や歌い手とかは、古くからずっといたさ。ただ、古代世界ではむしろ王様とかが、いまのアイドル的な役割を果たしてきたんだろうけれど」
『うーん・・・・・・つまり、芸能と政治は一緒だっていいたいの?』
「本質的にはな。とはいえ、現代の世界では芸能と政治はだいぶ分裂しているけれど」
『でも、芸能人が政界進出って、そこそこよくあるわよね』
「そう。ああいうのが白い目で見られがちだが、原理的には自然なことんだよな。ただ、政治と芸能が分裂してから、長い時間が経っているから、不自然に見えるわけで」
『ふーん・・・・・・
感心した口調でそう言う瀬奈。ちょっと照れくさい。
「よせやい。ただ、家に引きこもっているから、ああでもないこうでもないって色々と考えているから、哲学者っぽいことを言うようになったってだけだ」
『そうかしら。元々、そういう性質があったんじゃないのかな?・・・・・・そうね。もしわたしが芸能界で成功して、ゆくゆくは政界進出することになったら、井神くんを秘書として雇ってあげるね』
「そっか・・・・・・て、はい!?」
政治家として活躍するグラドルの瀬奈・・・・・・いや、男性票が大量に入りそうだけれどさ。その裏側で政策秘書として務める俺・・・・・・。
「・・・・・・なんか、嫌だな。瀬奈に使われるのは」
『ビシバシこき使ってあげるわよ~』
「そして、不祥事を全部俺の責任にするつもりだろう?分かってんだぞ」
『ちっ、バレちゃいましたか・・・・・・』
おどけたような口調の瀬奈。その声を聞いていると、いつの間にか心が軽くなっていることに気付いた。
そっか。いくら引きこもりの素質がある俺でも、ここまで外出が制限される時代の空気に、無意識にストレスを感じていたんだろうな。それが、瀬奈との会話で多少は消えていったということだろう。
「でもさ、秘書って同性がいいんじゃねえのか?異性の秘書って、不倫とかに発展するイメージだけれど・・・・・・」
『井神くん、ちょっと政治に悪い印象を抱えすぎじゃないの?というかそもそも、わたしたちまだ結婚していないのに、不倫の話題とかどういうことよ?』
「なんなら、恋人いない歴=年齢だけれどな」
『あら。二次元の恋人ならいっぱいいるでしょうに?』
「そう言う瀬奈もだろ。それとも、俺の知らないところで男つくってたのか?」
『バカ言わないでよっ!わたしも井神くん同様、二次元の恋人ばかりよ。それに、三次元の方はもうとっくに決めて・・・・・・あ、ごめん。なんでもないわよ!!それじゃあねっ、おやすみ!良い夢をね!』
何やら早口でまくし立てられて、瀬奈との会話は打ち切られた。
「・・・・・・いったいなんだったんだ」
切られたスマホを見ながら、ひとり呟く俺。 時刻は十時半を過ぎていた。いろいろな考えが頭の中に浮かんでは消える。
ま、考えてもしょうがないか。瀬奈の本心も、コロナウイルスも、俺の力でどうこうできるものではない。もう少し受験勉強をして、寝る前にアニメを2話ほど見て、今日を締めくくろう。
スマホを片付けて、俺は机に向かう。
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