第9話 エピローグ

 その後の話。


 サロンから助け出された、2人の令嬢。

 カモミーユ・アドバーシティー公爵令嬢と、ユタ・タラァクム男爵令嬢。

 この事件の当事者たる2人には、学院からそれぞれ通達が言い渡された。


 まず、ユタ・タラァクム。

 青白い火柱の出現に巻き込まれて吹っ飛ばされ、気を失っていた彼女。

 幸いなことに、少々火傷を負ったぐらいで、身体に傷が残るとかはない。

 しかしながら、先に逃げ出した令嬢方の証言により、彼女が襲撃犯である事が確定し、彼女は学院から強制退学という形にて、実家であるタラァクム男爵家へ帰される事となった。


 そして、カモミーユ・アドバーシティー公爵令嬢。

 青白い火柱の出現により、サロンを半壊させた当事者である彼女。

 取り調べの結果、魔法による暴走である事が正式に認められ、アドバーシティー公爵家による多額の補償金があったため、お咎めなしとなった。


 さて、そんなお咎めなしとなったカモミーユはと、言うと----



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「----はいっ! という訳で、カモミーユ・アドバーシティー公爵令嬢が、私達アイリス派の仲間になりました~! 皆、拍手拍手ぅ!!」


 パチパチパチ、パチッ!!


 1人盛大に、盛り上がるアイリス第三王女。

 そして私の横で、不満気に机に肘をつくカモミーユ。


 そんなカモミーユの手首には、私の黒い髪の毛で編んだ手製のブレスレットを付けられていた。


「ほら、カモミーユちゃん? 学院側からも聞いているでしょう?

 学院における魔法暴走事故対策のプロフェッショナル達でも、カモミーユちゃんの蒼炎魔法は強すぎちゃうから、カリカちゃんによる対策が義務化って話は」


 そう、あの後、黒ずくめの大人達に、私もまた取り調べを受けた。

 内容としては、どのようにしてカモミーユの青白い炎を消したかという話で、私の黒髪の蛇の話をした結果、そのような事態になったのだ。


 私の黒髪は、魔力を吸う蛇。

 そして、私の髪蛇は、私の頭を離れても魔力がある限りは生き続けて、効果を発揮する。


 さらには、カモミーユの現在の状態も悪かった。


 なにせ、カモミーユは以前のような炎魔法が全く使えなくなり、蒼炎魔法しか使えなくなったからだ。

 専門家曰く、一度タガが外れてしまったため、もう前のようには戻れないのでは、とのことで、カモミーユは今後蒼炎魔法しか扱えなくなったらしい。


 ブレスレット状に編み込んだ私の黒髪をカモミーユに取り付けさせて、これ以上の暴走を防ごうって言うのが、学院側からの正式解答である。

 それしか方法がない、とも言えるけど。


「理屈としては、わたくし理解してます」

「だから、カモミーユちゃんは私の派閥、家族制度推進派のメンバーになった訳です!」

「そこが一切、繋がらないって事も、理解してますわ」


 じとーっ、とアイリス王女を睨むカモミーユ。

 睨まれているアイリス王女はというと、何故か私に視線を向ける。


「だって、カリカ・パパヤちゃんはうちの派閥だし。当然っちゃ、当然だよね!」

「いや、私も了承した覚え、ないんですけど?!」


 なんか、私が了承した流れみたいだけど、私は父親になる気は全くありませんので!


「え~、それじゃあカリカちゃんは実家にこう伝えるのかな? 『折角、第三王女からのお誘いがありましたが、なんか生理的に無理っぽいので付き合えませんでした』って」

「うっ……!?」

「無理だよね~。男爵家の爵位的には」


 そう、問題はそこなんですよね。

 例え実家に隠し通そうとしても、この第三王女の性格からして、なんらかの手段で実家に伝えるのは明確。

 そして伝わってしまったら、お父さんやお母さんから、誘いを断った理由を問いただされる!


「(この人、王族なんだよなぁ……男爵家たるうちは、断る事なしですし)」


 結局のところ、父親役に選ばれたのをなぁなぁにして、頼んだことを忘れてもらうくらいしか私には出来ない訳で。

 ----誰でも良いって言ってたし、私、そんな王女様に固執されるような人じゃないんだけどなぁ?




「……仕方ありませんわね」


「そもそも、王女様との縁は作っておくのが目的でしたし」と、不本意極まりないという感じで。


「良いでしょう! わたくし一年、カモミーユ・アドバーシティー公爵令嬢! アイリス派、家族制度推進派に所属させていただきますわ!」


 まるで見栄でも切るかのように、堂々とした口調で宣言する。


「やった! これで母親役たる私、父親役のカリカ・パパヤちゃん! そして"次女役"の、カモミーユ・アドバーシティーちゃんと、揃ったね!」


 ニコニコとした笑顔で、アイリス王女はそう答えて。


「「"次女"??」」


 1つ気になった言葉を耳にして、私とカモミーユは、2人揃って、顔を見合わせる。


「そう! 2人目の娘だから、次女なのは当たり前だよ?

 私、カリカちゃんにも、カモミーユちゃんにもちゃんと伝えたはずだよ?」




 ----どうか私"達"の、パパになってくださいませ!!




 そう、初めからアイリス王女は私にそう伝えていた。

 『私』ではなく、『私達』って!


「娘も2人になった事だし、そろそろ長女役の彼女にも出て来てもらいましょうかね?

 ----王立エクラ女学院3年、ザエ侯爵家の八女。【プラタナス・ザエ】ちゃんに」




 ザエ公爵家----またの名を、『勇者爵』。

 ヒノモトから来た勇者達を、"最初に召喚した"侯爵家。


「カリカちゃん、今度父親として会いに行ってよね?」


 にこやかな笑みでそうお願いするアイリス王女が、私には悪魔の微笑みに見えたのであった。

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