第23話 『悪役令嬢』

 どうも、カリカ・パパヤ男爵令嬢です。


 朝、目が覚めたら、謎の素っ裸美少女と寝ていた男爵令嬢です。


「(いや、この娘、誰っ?!)」


 私も、学院で暮らしてきて、色々な人達と出会った。

 その中で、主にカモミーユの紹介で、注意しておくべき令嬢についても教えてもらった。


 この令嬢の家は養蜂を大切にしているので、蜂関連の話題をすると捕まって面倒になる、とか。

 あの令嬢は自分の家の爵位よりも下の人は見下すため、1人では会わないようにだとか。

 あそこの令嬢とあちらの令嬢は、実は裏で付き合っているだとか。


 そういった『気を付けておくべき令嬢』というのは、頭の中に叩きこんでいる。

 正直、私の頭の中では沢山の人を一気に覚えようとしたせいで、名前と顔と爵位がごっちゃになってるけど、危険な令嬢さんの顔は覚えてる。


 しかし、この良い匂いがする、灰色セミロング素っ裸美少女については、教わってないんだけど?!

 初見なんだけど、この娘!?


「(いや、問題はそんな事よりも----)」


 この状況は、非常にヤバイ・・・


 だって、知らない裸の美少女と一緒に寝てるんだよ?!

 同性とは言え、めちゃくそヤバイ状況である事は、確かでしょう?!


 もう少ししたら、時間的にカモミーユが朝、私を起こしに来る時間である。

 そして、この状況を見られたら、いったいどんな事を言われるやら----。


「とっ、ともかく起こさないと!」


 私は慌てて起こそうと、彼女の肌を触ってうわっ、ナニコレ?!

 すっげぇ肌がすべすべしてて、おまけに柔らかい。

 なにこれ……筋肉や骨とか、ちゃんと入ってる?


「うぅ♡♡ ワンちゃん、くすぐったいよぉ~♡」


 ……ダメだ、この娘。

 起きる気配、まったくないんだけれども。

 

 ていうか、本当に誰よ!?



「やはり、ここに居たね」



 と、私が悪戦苦闘して、この柔肌美少女を起こそうと格闘している時だった。

 

 扉を開けて、いつにもなく、冷たい視線をしたアイリス第三王女がこちらを覗き込んでいた。


「----最低最悪の悪役令嬢、ヴェルベーヌ・シャルマン公爵令嬢」


 そしてアイリス王女は、私の隣で眠るその美少女を、そう呼んだ。

 ----私のルームメイトとして、一度も帰った事がない、その公爵令嬢の名前を。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「いやぁ、めんごめんご。私、一度寝ちゃうとなかなか起きないって、お母様からも言われてるタイプだもんで」


 ----結局、その素っ裸美少女、もといヴェルベーヌ・シャルマン公爵令嬢が起きたのは、アイリス第三王女が来てから30分後。

 その間、ぐっすり、じっくり、なんなら寝言混じりで、彼女は眠り続けていたのだ。


 何なら私が起こそうとも思ったんだけど、アイリス第三王女からはストップがかかり、代わりに彼女のあらましを聞いた。


 


 ヴェルベーヌ・シャルマン公爵令嬢。

 シャルマン家の次女にして、厄介な魔法・・・・・を持つ『悪役令嬢』。


 なぜ、悪役令嬢というかと、彼女が実際にそれだけの悪事を行っていたからだ。


 彼女と結婚すると言って婚約破棄を申し出たのは、23名。

 彼女の気まぐれに爆破された建物、40棟。

 その他、20件以上の食い逃げや、50点近くもの窃盗持ち逃げなど、些細な悪事を含めれば彼女が起こした悪事は100件を越える。


 本来であれば、公爵令嬢と言えども、極刑、もしくは何らかの罰則があってもおかしくない程度の犯罪歴を所持しているのだそうだ。


「(いや、なんでそんな人が私の横で寝てたの?! しかも素っ裸で!?)」


 ----訳が分からないよぉ!


 ちなみに、アイリス王女がヴェルベーヌ公爵令嬢の所に来たのは、そのヴェルベーヌ公爵令嬢と結婚するといった人の中に、アイリス王女の兄が居たからだそうだ。

 第三王女の兄、つまりは王子!


 その名も、シャガ・J・ロイヤル第二王子。


 領土内にて鍛造技術が発展しているリューテッセンス侯爵家、そこのジプシス令嬢と彼の王子様は婚約していたんだそうだが、今回の件でジプシス令嬢と婚約破棄を正式に発表。

 そしてその際に結婚すると言っていた令嬢こそ、


「あっ、服着ていい?」


 この、ヴェルベーヌ公爵令嬢なのだそうだ。



「----ヴェルベーヌ嬢」

「はいはい、聞いてますよ。アイリス王女様~」


 普段よりも、真剣なアイリス王女様。

 一方で、こちらは真剣みの欠片も感じされないヴェルベーヌ嬢。


「うちの兄はあなたとの婚約を正式に発表したため、父である王からお叱りの命令が出されました。つまりは、実質上の継承権剥奪です」


 継承権剥奪って……つまりは、王様になれないって事だよね?

 王様が用意した婚約の破棄を発表したんだから、まぁ、当然の処置かも知れない。


「へぇ~、まぁ、そうなるかぁ~」


 一方で、当事者であるはずのヴェルベーヌ嬢からは反省の「は」の字も見えないんだけど?!

 学生服を着ようとして、袖に手を通すのを頑張っているようにしか見えない。


「----謝罪は?」

「ごめ~んね♡」


 いや、それで許されるわけが----



「良いでしょう、許します」



 ----えっ!?


 私の目の前で、アイリス王女はそう言って、部屋を出て行ったのでした。


 いま、何が起きたの?

 もしかしてこれが、アイリス王女が言ってた、厄介な魔法・・・・・ってこと?


 私は慌てて、部屋を出て行ったアイリス王女の後を追う事にしたのだった。

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