悪逆非道なトラブルメーカー

第22.5話 ヴェルベーヌ公爵令嬢は悪役令嬢

 王立オレオル学院では、月に一度、【社交界】という授業が行われる。

 当然ながら皆でパーティーをやって終わるという楽しい授業なんかではなく、むしろ逆に、オレオル学院においては一番厳しい授業と称される。



 まず、学院側の方から無作為ランダムに、5人程度の生徒が選出される。

 選出されたその生徒達は、主催者として、パーティーを開くという課題が与えられる。


 主催者側は、それからパーティーが開催される20日後に向けて、怒涛の日々が始まる。

 パーティーを開く会場の確保、会場内での飲食物や給仕の手配、パーティー会場へ案内するための馬車の手配など。

 それらは実家の伝手を頼って任せるというのも一つの案ではあるが、これはあくまでも授業の一環として行われるため、当然ながら採点は低くなるが。


 そして、それ以上に問題なのが、2つ。



 1つは、参加する者達の確保。


 学院側からの課題として、パーティーには40人から50人程度の参加者を募る事になっている。

 必ず、その人数で納めなければならないというのが、課題である。

 多すぎてもいけず、逆に少なすぎてもいけず。


 学院の内外問わずと言えども、それだけの生徒を確保する事は至難の技。

 あるいは参加希望者が多すぎて選定する場合、学院卒業後に恨まれて交流が滞る可能性もあるから、誰を選ぶかと言うのは、重要な問題なのである。



 もう1つは、出し物。

 貴族にとって、パーティーとは、各貴族との交流の場であると同時に、目新しさを学ぶ場でもある。


 パーティー開催をしても、前に見たパーティーの内容と同じだった場合、当然ながら印象は悪くなる。

 それを回避するためには、このパーティーだけの独自性、すなわち目新しさが重要なのだ。


 それは国外から取り寄せた珍しい果物だったり、あるいは特殊な特技を持つ冒険者達を呼んでの見世物なんかもあった。

 とにもかくにも、『あいつのパーティーは凄かった』という印象を残せるかが、鍵となるのである。



 さて、そんな【社交界】の授業で、その月の選ばれた生徒達は困惑していた。


 なにせ、あの・・第二王子も主催者側として選ばれていたからだ。


 ----シャガ・J・ロイヤル第二王子。


 多くの生徒達は彼のパーティーに参加したいと熱望し、他の生徒達が行くパーティーに参加を希望する者はなかなか集まらなかった。

 第二王子主催のパーティーに参加できたという実績は、貴族なら誰もが欲しいものだったからだ。



 ただ、そのパーティーに参加した多くの生徒は、後にこう語った。


 ----『過去最低のパーティーであった』、と。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「----【ジプシス・リューテッセンス】侯爵令嬢よ! いまこの場において、我がシャガ・J・ロイヤル第二王子との婚約を破棄させてもらおう!」


 良く通る声で、シャガ第二王子がパーティー会場にその声を響かせる。


 ----婚約破棄。

 言葉の通り、既に決まっている婚約を一方的に破棄する行為。


 貴族であっても、そうでなくても、恥ずべき行為である事は確かだろう。



 ……ちなみに、本日、"5度目・・・"である。



「そんな、殿下! あなたも・・・・ですの?!」


 濃い緑色の、髪の量が異様に豊かに多いジプシス侯爵令嬢が非難の声を上げる。

 既に5度目ともなると、だいたいの流れを皆、理解し始めていた。


 その流れの通り、シャガ第二王子もまた、他の4人と同じように。


「この我は、ここに居る彼女----ヴェルベーヌ・シャルマン公爵令嬢と婚約する!

 ----他の4人と同じく!」


 と、シャガ第二王子もまた、その令嬢の後ろに控えていた。



 灰色セミロングの、下げ眉毛と金色の垂れ目の少女。

 どことなく愛らしさを感じるヴェルベーヌ公爵令嬢は、えへへと、笑っていた。


「ごめんなさ~い。えへへっ」


 ----反省の色、まったく無し。

 むしろこの状況を、楽しんでいる様子すらあった。


 このパーティーの参加者は、漏れなく理解していた。

 第二王子主催であるこのパーティー、その主役はこのヴェルベーヌ公爵令嬢である、と。


「さぁさぁ、婚約破棄って言う面白イベントは終わったんで、美味しいご飯、みんなで食べようね~!」


「「「「「「イエエエエエエエイッッ!!」」」」」」


 ノリノリ、である。


 婚約破棄を行った5人の男達、そして婚約破棄された5人の令嬢達。

 そして、パーティーに出席していた他の参加者達。


 その全員が、ヴェルベーヌ公爵令嬢の音頭に合わせて、乾杯を行っていた。


 その三十分後、ヴェルベーヌ公爵令嬢は皆にこう提案した。


「そんじゃまぁ、このお屋敷爆破して、みんなで花火作って見ましょうよ! 花火!」


「「「「「「イエエエエエエエイッッ!!」」」」」」


 またしても、ノリノリ、である。


 このお屋敷はそもそも第二王子とは別に婚約破棄を行った伯爵家子息の持ち家である。

 決して、ヴェルベーヌ公爵令嬢の持ち物ではないし、爆破しても勿論ながら良い物でもない。


 しかし、全員が納得し、共感していた。


 


「じゃあ、爆破~♪」


「「「「「「爆破ぁ~♪」」」」」」


 どっかぁぁぁぁんんんんっっ!!


 それは大規模地震のような衝撃と共に、屋敷は木っ端みじんに爆破された。



 王立エクラ女学院1年、ヴェルベーヌ・シャルマン公爵令嬢。


 彼女と結婚すると言って、婚約破棄を行った者は第二王子含めて23名。

 彼女の気まぐれに爆破された建物、40棟。

 被害届を提出した者----未だに"0名"。


 そんな悪逆非道な真似を行う彼女を、世間はこう呼んだ。

 ----悪役令嬢、と。




(※)婚約破棄

 その名の通り、両名との間に交わした婚約を破棄する行為。貴族にとっては契約を一方的に破り捨てる行為であるため、正当な理由がない限りはしてはいけない忌むべき行為であるとされている

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