第25話 ヴェルベーヌに手を出した者の末路
「くそっ! しくじったぜ!!」
一方、その頃。
シャガ・J・ロイヤル第二王子は、軟禁状態である自室で、一人、嘆息していた。
ヴェルベーヌ・シャルマン公爵令嬢と言う
彼には、ヴェルベーヌ嬢を利用して、この国を、この世界を支配する計画があった。
ヴェルベーヌ嬢の、『自分を愛させる魔法』。
彼女の体臭を嗅げば、どんな相手であろうとも、ヴェルベーヌ嬢の有利になるように思考が支配される。
たとえ自分が不利益になろうとも、彼女の笑顔が見たいために、容易く地獄に堕ちてしまうという、厄介極まりない魔法。
そのヴェルベーヌ嬢の魔法と、シャガ自身の魔法を組み合わせれば、この世界を支配するのは確実だったのだ。
シャガの魔法は、『空間を繋げる魔法』。
王族であるシャガの魔法だけあって、一度に出せる穴の数は無制限、そして第二王子の視察と言う名目で王国の重要拠点には一度は訪れた事がある。
この魔法を用いれば、自身の体臭が香る範囲内でしか効果を示さないヴェルベーヌ嬢の魔法を、距離を無視して、王国中に香らすことが出来た。
そうなれば、あとはヴェルベーヌ嬢を
----まさか、シャガが念には念を入れて用意していた、対ヴェルベーヌ嬢用の防具が全て無効化されるとは思わず。
「(鼻は香らないようにがっちり魔法も使って、この世界から
完全に、ヴェルベーヌ嬢の魔法を侮った、シャガ第二王子の完敗である。
----後は知っての通り、である。
許嫁でもあったジプシス令嬢と共に、お屋敷を爆破する事件。
さらにジプシス令嬢を
不当に屋敷を爆破するのもともかく、正当な理由がないにもかかわらずの婚約破棄を行ったシャガ第二王子が、国王から突き付けられた命令が、『王位継承権の破棄』。
1か月、魔法を使うことが出来ない魔道具を身に着けての、軟禁。
殺されなかっただけ、まだマシと言える処分であった。
実際、シャガと同じようにヴェルベーヌ嬢にお熱になってしまった者の中には、責任を取る形で、殺されてしまって、死んだ者もいる。
王族であったことが、シャガが生き残る事が出来た理由の1つともいえる。
そんな状況でも、シャガ第二王子は、王になる道を諦めてはいなかった。
「----1か月、1か月だ。それだけ我慢すれば良いだけだ。
その期間を耐えきれば、俺は再び魔法を使うことが出来る」
そして、その時こそ、シャガ第二王子の、王になる道への再出発の日となる。
ジプシス令嬢への謝罪という名目で、彼はヴェルベーヌ嬢に対しても謝罪をするつもりであった。
そしてその際、シャガは今度こそ、ヴェルベーヌ嬢を自分の手駒にするつもりなのだ。
彼女の力は、その身をもって味わった。
故にだからこそ、あの魔法の力さえあれば、シャガが王になるのは確定したようなものだ。
「ふふっ……! 1か月後が、今から楽しみだぜ!
----クークックククっ!! ハーハッハハハハ!!」
『『ユル・サ・ナイッ』』
「なっ?!」
と、そこでシャガは
『空間を繋げる魔法』を持つ、シャガ・J・ロイヤルだからこそ気付いた。
『『ワレ・ラ・ガアルジ、"シャルマン"・サ・マニ、危害ヲク・ワ・エルナラ、』』
その空間の割れ目から、4対8個となる真紅色の瞳がこちらを覗いていた。
『『"アトラク・ナクア"ノナ・ヲ・モッテ、オマエヲショ・ブ・ンスル!』』
真紅色の瞳を持つソイツが口を開き、そこから紫色の蜘蛛糸がシャガを覆う。
「なっ……?!」
シャガが紫色の蜘蛛糸に触れると共に、その肌が溶解し始めたのである。
そして、肌が溶け始め、その下のほんのりと赤い筋肉繊維が浮かび上がっていた。
「ひっ、ひぃぃぃ……!!」
自分の肌の下に隠れて普段は絶対に見れない、筋肉繊維を見て、シャガは激痛と共にその場に倒れる。
それを見て、空間に隠れていた真紅色の瞳を持つソイツは、空間の中からぬるりと抜け出してきていた。
空間の中から這い出てきたのは、人間と同じ大きさの、巨大な蜘蛛。
黒檀色の毛で覆われ丸太のような脚を持つ、真紅の瞳を持つ巨大蜘蛛。
アトラク・ナクアと名乗ったその蜘蛛は、丸太のような脚を動かし、口を開く。
『『"シャルマン"・サ・マ! イマス・グ・ニ、イチノコ・ブ・ンタル、コノ"アトラク・ナクア"ガ・マ・イリマス!』』
そして、アトラクは背中から
その蜘蛛の主、【
(※)アトラク・ナクア
空間と空間の間にあるとされる深淵に潜む、蜘蛛の神。創作神話たるクトゥルフ神話に登場する架空の神と、同じ名を持っている
真紅の瞳を持つ人間と同じくらいの大きさの蜘蛛で、様々な昆虫の器官を多数持っており、臨機応変にその器官を身体から出して使い分けている
いつ、どこで生まれたかは定かではなく、何故空間の間の深淵内に潜むかは不明。一説によると、【
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