長女の耳は狐耳
第10話 カリカ、長女に会いに行く(1)
「----もう一度、伝えましょう」
飲みかけの紅茶を机の上に置き、その少女は静かにそう告げる。
うっすら眠たそうなぼんやりとした瞳、愛くるしい少女のような背恰好。
制服は将来の成長を加味してやや大きめに設計されたためか、裾や袖がぶかぶかになってしまっている。
一番の特徴は、金色の髪の上で、ひょこひょこと揺れる耳。
そして、お尻に本当についているかのように、彼女が言葉を語ると同時に揺れるモノ。
----狐耳。そして、狐の尻尾。
明らかに人のモノではない、狐という獣の耳と尻尾が、少女の動作と共に、小刻みに揺れる。
まるで本当に、生きてるかのように。
「ボクの意見は至極単純にして、整合性の取れた、アイリス第三王女も納得するに違いない意見であるため、きちんと伝えて欲しいんだ。カリカ男爵令嬢」
狐耳少女----ザエ公爵毛の八女、【プラタナス・ザエ】。
アイリス第三王女の家族制度において、『長女役』に任命されているその少女は、私にこう告げた。
「----ボクを、『長女役』から下ろして欲しいのだよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
----狐耳少女、プラタナス・ザエと出会う、およそ7時間前。
「----いつまで、寝てるんですの!」
バシンッ!!
「痛っ……!?」
頭に激痛を感じた私は、慌てて起き上がると、そこには丸めた紙を手にした下手人の姿があった。
赤い髪を、私の髪の毛で作った髪留めでまとめたスタイル抜群の美女、カモミーユ・アドバーシティーその人である。
「眠りこけてましたから、起こしに来ましたよ。おと……カリカさん」
ふんっ、と顔を背けるカモミーユ。
先日、暴走した魔法によってサロンを半壊させた彼女は、アイリス第三王女の庇護下という形にて、今日も今日とて学院に通えている。
もっとも、そのせいで、カモミーユは1週間に1回、私の髪で出来た髪留めを交換。
その上、アイリス第三王女の家族制度という制度に、『次女役』として参加を余儀なくされたんだけど。
ちなみに、私ことカリカ・パパヤは、『父親役』に強制任命されてた。
……何故だぁ。
「えっと、カモミーユ」
「なんですか、おと……カリカさん」
「今日って、授業はお休みじゃなかった?」
本日は、『どようび』という休日で、学院は休みである。
昔、ヒノモトから来た勇者達のうちの1人が『"どにち"は絶対に休ませていただきませんと、困るんだなぁ!!』という伝承から来たものであり。
この時から、『げつようび』『かようび』『すいようび』『もくようび』『きんようび』『どようび』『にちようび』----合計7つを1まとめにして、『いっしゅうかん』と呼ばれるようになった。
「(いま考えても、勇者達って凄いよなぁ。2日間休みを与えれば、5日間は文句言わずに働いてくれるんだから)」
その伝承から、学校や施設などでは『どようび』と『にちようび』は休業しても良い、という事になっており、本日はその『どようび』。
私の記憶が正しければ、今日はお休みだと思ったんだけど……。
「えぇ、授業はお休みの『どようび』でございますわ。
----という事で、アイリス王女から伝言です」
『ちょうど、お休みという訳なので、長女役のプラタナス・ザエちゃんに会いに行ってね!
彼女は学院が所有している、ザエ公爵家専用の研究棟にいるはずだし、れっつ・ごー!!
----母親役 アイリス・A・ロイヤル第三王女』
カモミーユが取り出した紙には、アイリス王女からの勅命が書かれており。
「という訳で、今から行きますわよ。おと……カリカさん」
私は休日を、いきなり潰されるのでした。
(※)休日
ヒノモトから来た勇者達によってもたらされた概念の1つで、7日間を1週間というセットとして考え、初めの5日を平日、後の2日を休日とする概念
これにより、学院やお店など、多くの施設が『どようび』と『にちようび』の2日間を休日と設定している。勿論、騎士団や教会など、全員休みだと困る施設は交代で休みを取って運営している
なお、『げつようび』や『かようび』とはいったいどういう意味なのかは、勇者達は伝えていないため、そういう特殊な区分をするのだなぁ程度の認識で伝わっている
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