第11話 カリカ、長女に会いに行く(2)

「ねぇ、カモミーユ」

「なんですか、おと……カリカさん」


 私とカモミーユの2人は、長女役の令嬢、プラタナス・ザエに会うべく、ザエ公爵家専用の研究棟とやらに向かっていた。


 『どようび』という休日ではあったが、授業がないというだけで、食堂や、勉強に使うための図書室などは解放されていた。

 つまりは、学院には、普通に多くの生徒が居た。


 そんな多くの生徒達にとっては、私達の姿は強烈だっただろう。



 ----なにせ、"ドレス姿"なのだから。



「ほら、背筋を伸ばす! おと……カリカさんは、背筋がスラッとしてるんですから、そういう見栄えが良くなるスレンダーラインなドレスなんですから、堂々としてくださいまし!」


 と、そう語るカモミーユもまた、着ているのは制服ではなく、真っ赤なドレス。

 私もまた、白色のドレスを着ている。


「こんなドレス、久しぶりに着ましたよ」


 私が着ている身体のラインに沿って、細身である事をさらに美しく強調するドレス。

 ……ちなみに学院でドレスが必要だとは思っていなかった私が持っているはずもなく、これはアイリス王女からの借り物である。


「良くお似合いでしてよ」


 そういうカモミーユが着ているのは、なんと彼女が実家から持って来ていた、自前のドレス。

 私が着ているドレスと違って、カモミーユが着ているのは上部が小さく裾が広がっているシルエットのドレス。


 赤いドレスを彼女が着る事によって、彼女の身長がさらに高く見せていた。

 ……あと、色々と女らしい部分も、めちゃくちゃ大きく見えるんだけども。


「----と言うか、なんでドレス?」


 プラタナス・ザエ公爵令嬢に会うという事で、いきなりドレス姿にされたんだけれども。

 なんかカモミーユに、流れで私、ドレス姿にされたんだけど……私が会いに行くザエさんって、ドレス姿大好きさんなの?!

 このドレスも、アイリス王女が用意してたみたいだし……。


「プラタナス・ザエさんって、ドレス大好きなの?」

「いえ、むしろ贅沢とは無縁のようなお方ですわ」

「じゃあ、なんでドレス?!」


 贅沢無縁な人と会うのに、なんでドレスを着ないといけないの?!


「だって、プラタナス・ザエと言えば、教職員を除けば、この学院で一番偉い人なんですわよ」

「えっ……それって、アイリス第三王女より?」

「えぇ、ある意味ではアイリス第三王女よりも」


 ……王族よりも偉いって、どのくらいですか?!

 なんなんですか、プラタナス・ザエって……。


「偉い相手には、こちらも相応の恰好で臨む事こそが、貴族の礼節、礼儀足るモノ!

 故に、貴族で一番の礼節を整えた格好と言えば、勿論、ドレスに決まっているではありませんか!」

「決まっちゃってるかぁ」

「そうですとも! 決まってますとも!」


 確かに貴族で一番の正装と言えば、ドレス姿と言えば、そうなんだけれども……。


「(めちゃくちゃ目立ってますよね、これ!?)」


 そりゃあ、そうでしょうとも!

 なにせ、学院に相応しいとは思えない、ドレス姿!


 目立つ、そりゃあもう目立つに決まってるじゃないですか!


「あぁ、めちゃくちゃ目立ってる気がする……」

「それで良いのですわよ! なにせ、ドレスは目立ってなんぼですし!」


 ドレスってのは、社交界などのパーティーで着る服だ。

 つまりは、目立つための服。

 

 華やかなパーティーで、ドレスばっかりな所ならそれで良いのかも知れないけれども、やっぱ学院内だと目立ってしゃあないですよ。


「ほらほら、ザエ公爵家専用の研究棟はもうすぐですよ!」


 と、カモミーユが指差す先----そこには奇妙な建物が建っていた。


 細長い、銀色の塔。

 学院の2倍近い高さの建物で、その建物の先端にはクルクルと回る球体がついていた。


「なに、あの球体……」

「さぁ、入りますわよ?」


 私が、塔の先端の球体に気を取られている中、カモミーユは扉を開いていた。


「あのっ! わたくし、カモミーユ・アドバーシティーと申しますわ! プラタナス・ザエ様にご面会に上がりましたの!」

『----そのように大きな声を出さずとも、聞こえてるとも』


 『やれやれ』とそのような声が中から聞こえて来たかと思うと、扉を開けて1人の少女が出て来る。


 かなり小柄な、金髪の少女。

 「ふわぁ」と欠伸混じりで出てきた、自分よりも大きめの制服を着た少女。


 ----そして、頭には狐の獣耳、それに尻尾。



「なんだい、君達。ドレスなんて着てからに。

 学生であるうちは、学生服を着るべきだろうに」



 開口一番、その狐耳少女は私達の恰好にツッコミを入れる。


 ……いやまぁ、そうなりますわな、普通。


「まぁ、話は塔の中で聞こう。大方、想定内の事態ではあるからね」


 ごほんっ、と一言、咳を放ち。



「ボクは王立エクラ女学院の3年、プラタナス・ザエという者だ。

 一応は、名ばかりとは言え、"辺境伯"という爵位を持つ、本物の貴族であるため、それなりに敬うように」




(※)プラタナス・ザエ辺境伯

 王立エクラ女学院3年にして、アイリス第三王女が推し進める家族制度における『長女役』の担当

 魔法などの研究において、多大なる成果を上げており、既に学生の身でありながら、既に【辺境伯】という爵位を持つ、本物の貴族様

 ザエ公爵家の祖先たる、ヒノモトから来た勇者が『獣化』と呼ばれる獣の特徴をその身体に宿すという魔法を持っていたらしく、ザエ公爵家の人間は獣の耳や尻尾のようなモノをその身から生やしており、プラタナスの場合は狐である

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