第2話 第三王女は『父』にしたいようです
「改めまして、自己紹介させていただきたく思います。
----わたくし、この学院の2年生、【アイリス・A・ロイヤル】と申します」
突然の"パパ"宣言を受けた、その日のお昼休み。
私は学校の食堂にて、例の、委員長タイプの正統派美少女さんと一緒に会食を行っていた。
まぁ、『連れてこられた』ってのが、正しい表現だと思うんだけど。
「一応ですが、この国の第三王女、やらせていただいてます」
「----第三、王女?!」
「継承順位としては下から数えた方が低い、なんちゃって王女なんで、気にしないで大丈夫ですよ♪」
正統派美少女----アイリス第三王女は、笑顔で「気にしないで」と言ってくれてはいたが、私はビクビクしっぱなしであった。
なにせ、王女ですよ?!
この国の王女様なんですよ?!
私なんか、人々に嫌われている黒髪の、ごく一般的な男爵令嬢ですよ!
「----っていうか、『パパになって』って、どういう事なんです?!」
「あぁ、やはり気になっちゃいますね。その辺も、ちゃんと説明させていただきます」
ペコリっと、丁寧に頭を下げて、アイリス王女は説明を始める。
「我が王立エクラ女学院では代々、姉妹制度と呼ばれる互いを支え合う制度があります。この制度は元々、私達のようなお嬢様の立場を守るためです。家に嫁ぐのって、色々と大変ですから」
一度、他の家に嫁ぐと、自分自身で使える時間はほとんどなくなる。
召使いや乳母さん達に指示を出したり、領地に訪れたお客様の接客、時には家令と共に領内の政治。
他の家との交流も大切だからと、詩人や音楽家を招いてサロンを開いたり、自ら芸術家として活動したり。
果ては、夫の代わりに戦地に行って、武装した状態で兵を率いたりもする。
本当に、たくさんの仕事が押し寄せて、自分の時間なんてなくなってしまう。
『結婚は人生の墓場』という言葉もあるが、それはそのくらいの覚悟でいなければ他の家に嫁ぐ事なんて出来ないという意味でもある。
「そんな状況で、姉妹として縁を結んだ仲間が居れば、心配も、不安も少なくなる。なくなるかもしれない。
そういう目的にて、王立エクラ女学院では、姉妹制度を採用しています」
「しかしっ……!」と、感心していた私の気分を吹っ飛ばす勢いで、アイリス王女は力強く宣言する。
そりゃあもう、テーブルを強く叩きすぎたせいで、上に載っていた食事が跳ねるくらいに。
「その制度は、今の時代には合わない! 古い制度なんです!」
「ふる、い……? 私が憧れている、尊い姉妹愛が?」
「はいっ、カリカさんが憧れている、尊い姉妹愛が!」
……いや、そこで自信満々に断言されたくはないんだけど。
「今のご時世! 自分を慰める
そう、新たな、家族の形! そのような理想の形を知って置くということは、嫁いだ後に自分の心が折れかけた後にきっと役に立ちますよ! 今の自分と理想の形、どう違うのか分かれば、対策も立てられますし!
姉妹制度も勿論、制度としては良いですが、それなら家族でも代用できるし、なにより家族シミュレーションが出来るこちらの方が良い事は間違いない!」
めちゃくちゃ、力説されてるんだけど。
けれども、そこがどう、私が父親になることに繋がるんだろうか。
「その理想の家族には、男性----そう、どうしても父親役をやってもらう人物が必要となってきます! その父親役として、カリカ・パパヤ男爵令嬢! あなたに決めたという訳です!」
「なんで、私?!」
志は立派だと思いますけれども、それでなんで私に父親役を頼むのか、分からないんだけど!
話の流れが、まーったく繋がって来ないんだけれども!
「私、ただの男爵令嬢ですよ! そんな立派な試みに選ばれるような、立派な人間ではないですよ!」
それなのに、なんで私を選ぶのか教えて欲しいんだけど!
……うっ、あまりに重すぎる役目すぎて、胃が痛くなってきたんだけど。
「ふふっ、それはですね!」
「それは?」
「勘、です!」
----どんっ!!
力強く宣言する、アイリス王女。
「この学校に通うお嬢様たちは、子女としての教育を受けすぎています。つまり、普通のお嬢様を選んだところで、得られる結果というのは大差ないということです」
「じゃあ、私じゃなくても----」
「えぇ! つまり、そんな弱気な態度でいては、新しい革新的な事は出来ないという事です!」
アイリス王女は目をギラギラさせながら、私の顔に自分の顔をめちゃくちゃ近付けて来て----
「新しい事をやるからには、今までにはない、新たな挑戦が必要だと思いまして!
だからこそ、あなたのような新鮮な要素が必要なんです!! 分かってもらえまして!?」
鼻息荒く、そう話してきた。
この時、私はアイリス王女の
彼女は、その真面目そうな外見に反して----
生粋の、
(※)結婚は人生の墓場
ヒノモトから来た、勇者達が知識として遺した言葉の1つ
結婚すると、男性は『様々な責任』や『趣味を犠牲』など、女性は『たくさんの仕事』や『他家との交流』など、自らが自由に出来る時間が少なくなる、またはなくなるため、結婚したらそこを墓場としてその身を捧げよという意味で使われている
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